経済産業省の「コンテンツ緊急電子化事業」(緊デジ事業)の本申請が5月9日から開始された。実務を担当する出版デジタル機構が8日に行った説明会の内容がITmediaのeBook Userに紹介されているので、同記事およびUstreamの動画放送録画をもとに、今回明らかにされたデジ機構のビジネスモデルについてコメントしていきたい。これでEPUB排除(ガラパゴス救済)という本事業の性格が明らかになった。最初は「制作コスト」タダで、3年間20%という驚異のビジネスモデルも。
“東北復興支援”でEPUB外し?:消えた中間フォーマット
「東北復興支援」という看板に対応する内容は、「東北関連書籍の電子化」について、補助率が2分の1から3分の2に高まるということになっている。つまり16.66…%だけ優遇される。「東北関連」とは、東北6県の出版社、または著者か舞台が東北であるなど、としている(自己申告)。いずれにせよ、この事業の「東北」度は16%くらいということになる。基本的には出版社のデジタル化を公的資金で補助すると理解すべきなのだろう。
今回の電子化は、スキャン・データをもとにしたもの(フィックス型という)とDTPデータをもとにリフロー型フォーマットにするものに分けられる。制作会社から機構に納品されるのは、配信用とアーカイブ用のファイル。配信用では、前者がドットブック、XMDF、EPUB3、後者がドットブック、XMDFで、実質的には国内で流通するドットブックとXMDFに限られる。デジ機構では半分を想定しているフィックス型は「自炊フォーマット」に過ぎず、現代の出版物のフォーマットとして価値はきわめて低い。緊デジは、「緊急共同自炊プロジェクト」であったと揶揄されることになるだろう。
あろうことか、リフロー形式としてEPUBは外されている。「EPUBを取り扱う電子書籍ストアが少ない現実を考慮したため」というが、アマゾンやKoboなど、グローバルなサービス・プラットフォームが立ち上げようとしているだけに、EPUB外しは意図的なものと考えられても仕方のないところだろう。公的資金で開発された中間フォーマットは、アーカイブ形式から消えてしまっており、これはTTX(ドットブック前提)、記述ファイル(XMDF前提)で代用される。アーカイブはそれぞれのフォーマットで行う、という奇妙なことになった。
「変換業務などを機構が行う」とはいうものの、有償かどうか、幾らになるかは明らかでない。そもそもツールはあるのだろうか。ともかく、デジ機構自身が中間フォーマットの価値をあまり認めていないようなので、相当な開発費をかけた、ドットブックとXMDFの「中間」フォーマットの実用価値は、今回は実証の機会を失ったことになる。
こうした自炊事業、ガラパゴス・フォーマット支援事業は、粛々と予算を消化するだけでビジネスではない。そこでデジ機構のビジネスモデルにも注目しないわけには行かないのだが、今回初めてモデルらしいものが示された。それによると、「出版社が代行を依頼すれば電子書籍ストアでの販売まで機構が対応し、制作費として3年間を目安に売上の20%をシェアする」というものだ。販売プラットフォームを持たない機構が販売を委託されるというのが何を意味するか。おそらく卸事業者と小売プラットフォームを通じて販売することになるだろうが、20%の上にさらに30%も「シェア」されたら出版社、著作権者はたまらない。販売価格の20%の「制作費」が本当ならば、法外というしかない。典型的な後出しジャンケン。この部分は非常に重要なので、きちんとした説明をしていただきたい。 ◆ (鎌田、05/10/2012)
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