米国のスタンフォード大学出版(SUP)は5月11日、Stanford Briefsというデジタル・ショート・コンテンツ専門のブランドを立ち上げることを発表した(Publishers Weekly, 5/11)。当面は、メイン・カタログの補完的位置づけで、多様な学術的テーマに関するオリジナルなショート・コンテンツを10ドルあまりでリリースしていく。5月15日には、シリーズ最初のタイトル"The Physics of Business Growth" (by Edward D. Hess and Jeanne Liedtka, 144p)が8ドルで発売され、同サイトのほか、主要プラットフォームで提供されている。イノベーションをモットーにする同大学だが、伝統ある出版局のE-Bookへの取組みはかなり慎重だ。 [全文=♥会員]
SUPのシリーズは、話題性のある学際的テーマについてのエッセンスをコンパクトに提供することを意図したもので、SUPのリストを反映している。最初の1冊となった『事業発展の物理学』は「ビジネス読者が理解し、実践すべきアプローチにフォーカスした明快な」著作であるとされている。刊行ペースは年間6~8点と発表されていたが、アラン・ハーヴェイ担当部長によれば、反響によってはさらにスケールアップする用意があるとのことで、「画期的なプロジェクトが20あれば、20点を出したい」という。ということは、パイロット的な意味がありそうだ。
SUPは、独自サイトを通じて現在450点以上のタイトルをE-Bookで提供しているが、Adobe Digital EditionsのEPUBファイルとして(シングルID、マルチ・デバイスで)提供されている。Kindleは直接サポートしていないが、多くのタイトルはKindleストアからも購入できる。価格は高いが、トライアル(14日)およびレンタル(60日)というシステムもあり、印刷本には2週間のアクセスが付いている。例えば中国の京劇の歴史についての"Opera and the City"という本は、クロス装の印刷本の定価が$55で(+デジタル2週間)、E-Book版は$44、2週間版は$13.75、2ヵ月版は$27.50、フルアクセスが付いた印刷版は$66となっている。かなり複雑な構成で、どの程度の意味があるかは分からない。
米国の大学出版局の本は、1970年代には潤沢にあった補助金が削減されて以降、小部数を前提とした採算性重視の高値設定となっており、一般には買いやすいものではない。デジタルにおいてもかなり保守的な価格設定で、大学の潜在的影響力を十分に発揮しているとは言えないことから、批判を受けていた。Briefsは、(1)ショートコンテンツ、(2)実務家向け、(3)大学のプロジェクトと連携、(4)本体の刊行計画と連動、といった点で、本体のリストの電子版と区別される。Briefsはとりあえずメインの出版活動に対する補完的な位置づけだが、パフォーマンスによっては独自の事業性を開拓していくというスタンスだと思われる。次回の発行予定は以下の2点。"Moving Forward: Understanding U. S. Health Care Under the Affordable Care Act Working" (前進:新医療法下の米国医療)および "The System: How to Resolve Organizational Quandaries by Engaging Systems Thinking."(組織を苦境から救うシステム思考) ◆ (05/16/2012)