IDPFのマーカス・ギリングCTOは、ニューヨークで開催されたIDPF Digital Book 2012でEPUBの今後の方向性について講演し、EPUB3のコア・カーネルには手を付けずに、機能をモジュールとして追加していくことを明らかにした。当面のプロジェクトとしては、これまで強いニーズがありながら見送られていた辞書・用語集などがあげられており、これは今夏には草案が示されるようだ。本としての辞書とサービスとしての辞書をどのように整合的に仕様化するかが注目される。
辞書、索引、注記からレイアウト、管理機能までをモジュールで追加
ギリングCTOはまた、旧式で貧弱な現行の索引機能を最新のレベルに上げる作業が進行中であること、リンキングとアノテーション(注記)について非公式な動きが始まっており、出版物間のリンキング、アノテーションの互換性に取り組もうとしていると語った。オープンソースのEPUBバリデーション・ツールのEpubCheckはバージョンアップに向けて活動中で、年内にもリリースされる予定。またEPUB Standard Widget Tooklitは計画段階に入っている(プロジェクトの一覧は idpf.org/ongoing を参照)。
このイベントではほかに、Googleのガース・コンボイ氏が、固定レイアウト・モジュールの進行状況、Advanced Adaptive Layout(適応型レイアウト)、Lightweight Content Protection(簡易コンテンツ保護機構)について紹介した。またB&Nのロジャー・ウェブスター氏が、Advanced “Hybrid” Layoutsについての説明を行った。これは複数のルートファイルからの描画、描画の選択、描画マッピング、パネル毎のナビゲーション、ホットスポットなどが含まれている。同氏によれば、E-Bookはいまやソフトウェアで、EPUB3はWebと同じオープン標準を共有しているが、本のページはWebページとは異なるために、異なる処理モデルを必要としている。そうした意味ではEPUB専用のJavascript APIは検討に値すると述べた。また、ページや章、本の間でのコンテクストの共有を扱えるように、文脈依存のE-Book向けDOM (Document Object Model)の必要性についても述べた。
電子文書標準、Web標準との“大統合”へ
電子化書籍の前提となるドキュメント・ソフトウェアと標準化の歴史はかなり古く、1980~90年代に拡大した。市場としては、まずワークステーション用の技術文書システム、次いでPC用のオフィス文書システム(ワープロ)に対応していたのだが、標準として拡張を重ねたものの、重くなりすぎて普及はかなり中途半端なものだった。90年代後半から爆発的に拡大したWebの世界は、これらとルーツを共有しつつも、当時のインターネットで使うことが前提だったために、原始的なハイパーテキストからの出発となった。IDPFにおいて課題となっているのは、成熟し高度化したWeb系標準技術をベースに、過去30年あまりのドキュメント標準のライブラリから取捨選択、必要な拡張を行って、モバイルE-Bookの環境にバランスよく再構成することではないかと思う。考えただけで膨大な作業になりそうだが、幸いにしてXML(メタ言語)とUML(モデル記法)という道具があり、優れたアーキテクトもいるので、意外とスムーズに進むかもしれない。重要なことは、静的な構造体としてのドキュメントではなく、動的なプロセスとしてのE-Bookのサポートに進んでいるということだ。
ITの中核的な標準は、メンテナンスと拡張によって更新されなければ、すぐに陳腐化していく性質を持っている。とくに機能的拡張の場合は、各機能モジュールの整合性をとる必要があるので、ロードマップを共有しつつ、要求と仕様化、実装技術の成熟を見ながら一歩づつ進めていくことになる。多種多様なニーズを反映しなければならないE-Bookのフォーマットは、固定フォーマットなどを含めて、まだ数多くの拡張の余地がある。過去の出版と将来の出版を繋ぐ上で、組版は最初に解決しなければならない重要な機能だが、全体から見れば一部なのである。 ◆ (鎌田、06/07/2012)