ハーパーコリンズ社は、同社のすべての書籍を、印刷版あるいは電子版で全世界の英語書籍市場に提供するHarperCollins 360という出版プログラムを発表した。この計画により、権利関係で制約があるものを除き、HCのグローバル・カタログは、約5万点の印刷本、約4万点のE-Bookを擁することになる、とリリースは述べている。英国、オーストラリア、ニュージーランド、インド、カナダで出版された著者の本は、書店あるいはオンラインで米国でも販売されるが、HCのプラットフォームには、現地在庫のほか、オンデマンド印刷も含まれる。[全文=♥会員]
世界的なコンテンツ制作・流通プラットフォームを利用
計画では、まず7月1日に英国HCのタイトルの海外販売がHarperCollins 360に移管され、年内にはその他の諸国のタイトルも移管する。HCのブライアン・マレーCEOは、「弊社は、著者の世界的影響力を最大化するためにマーケティングとパブリシティ支援を行うことで、出版における新しい役割を確立する」と述べている。HCのような世界的出版社にとっても、出版活動は国や地域ごとに分断されており、印刷本中心の時代には(たとえコストや機会損失が伴ったとしても)それがさほど問題になることはなかった。しかし、アマゾンによるオンライン販売が拡大し、E-Bookが米国以外にも広がるようになると状況は一変する。アマゾンの自主出版を利用した著者は、そのまま世界の読者へのアクセスが得られるから、世界的大出版社の重要な仕入先である有名著者が不満を募らせることになったからだ。こうして、世界市場へのアクセスは出版社にとっての義務にさえなりつつある。
HCのソリューションは、グローバル印刷+デジタル出版プラットフォームというもので、世界175ヵ国で、オンデマンド印刷 (Print on Demand)、書店印刷 (Digital-to-Print at Retail)という生産・流通設備をインフラとして、現地でのマーケティング機能を結びつけている。これは米国の大手取次会社のイングラム社(テネシー州ナッシュビル)のサービス・ネットワーク(Lightning Source)と提携して可能になったものだ。出版業務は、制作、流通、販促、販売、在庫などのサプライ・チェーンにおいてかなりのオーバーヘッドがあるので、世界的な事業展開は、他産業ほど効率的ではなかった。しかし、デジタル化はこのオーバーヘッドを軽くするので、グローバルな展開は必然でもある(さもないとアマゾンがニーズを満足させる)。
HCは昨年10月、米国出版界の最古参出版社でもあるクリスチャン出版の最大手トーマス・ネルソン社を買収したが、HCの買収動機の一つが、TNのコンテンツを世界販売することであったと言われている。つまり、専門出版社を傘下に収めて(英語圏全体に)世界展開するという形だ。HarperCollins 360は、各国現地法人のコンテンツをまず米国市場に展開し、次に世界展開しようというものだ。こうしたパターンは、ランダムハウスなどグローバル大手に共通する世界戦略となるだろう。 ◆ (鎌田、06/14/2012)