先週末から今週にかけて、楽天/Koboとアマゾン/Kindleの日本での立ち上げに関する情報が駆け巡った。これまでのような噂や、噂の噂ではない正規の発表なので、今夏(おそらく7月中)にどちらも発売する可能性が強い。ようやく競争らしい競争が始まり、市場は離陸していくことになろう。「電書元年」から3年も経ってしまったが、このかん様々な日本的“幕末現象”が見られた。われわれが知ったことは、デジタルとはファイル形式の問題ではなく、ネット上の情報の流通に関するものであるということだ。(図は波濤を越える咸臨丸)
楽天の三木谷CEOは朝日新聞で、Koboを1万円程度で販売すると述べている(7月2日予約開始)。Kindleがさらに安い値札を付ける可能性もあるが、まずは対抗できる価格だろう。コンテンツは年末までに約5万点を計画しているが、楽天はEPUB3を使い、アマゾンはそれをKindle Formatに変換して使うことになるので、日本の出版社から提供されるタイトルは、KoboとKindleでほぼ共通すると考えられる。
KoboとKindleの日本登場の意味は、さしあたって3点ほど考えられる。
第1に、特定のデバイスを前提としない、世界的なクラウド型コンテンツストアが初めて登場すること、それにより、日本のコンテンツが世界中どこからでも入手可能となることだ。三木谷CEOはほかならぬ日本の出版業界にとって巨大な潜在市場が開けることを強調している。これまで「黒船」のように考えられてきたが、この船は貿易船であって軍艦ではない。輸出にせよ輸入にせよ、衰退を続けてきた出版にとっては市場が開けることが重要なのだ。
第2に、グローバル・スタンダードであるEPUB3を採用すること。幸いにして日本語組版機能をEPUB3に組み込むことに成功したので、EPUB3はじつに使いやすいものとなった。この標準は今後も成長し、コンテンツやサービスの多様性を支えるだろう。標準なのでこれを「中間フォーマット」とすることで、XMLベースの日本仕様のフォーマット(XMDF、dotBookなど)との相互変換も行われる。現在、大手出版社のタイトルのEPUB化が急ピッチで進められている。いったい、フォーマットをめぐるこれまでの空転は何だったのか、と言いたいところだ。
第3に、楽天は国内消費税を回避するために、海外から配信する方針と伝えられる。アマゾンと対抗するにはそれ以外の選択肢はない。まして10%以上の消費税は、コンテンツに対しては禁止的な課税と言える。米国ではコンテンツ配信は非課税であり、MP3音源も含めて無税コンテンツが米国のコンテンツビジネスの躍進の原動力になってきた。5%が2年後に10%以上になれば、日本のストアも早期に海外配信に踏み切るしかない。これに対しても課税しようとすれば米国との紛争となり、非課税にすれば消費税問題をさらに複雑にするだろう。
第4に、KoboもKindleも半分オープンな環境であって、とくに近い将来予想されるタブレット(Kobo VoxおよびKindle Fire)の発売を含めて考えれば、ハードやアプリを使った各種サービスなど、様々なメーカーやサービス企業と提携することが出来る。グローバルなプラットフォームの登場は、コンテンツとサービスの世界市場の形成を進め、最新のビジネスモデルの展開の機会を生む。出版ビジネスだけでなく、メディアビジネスを中心としたあらゆる業界の活性化につながるだろう。楽天以外の日本企業が積極的に受け止めることを期待したい。◆ (鎌田、06/28/2012)