DRMの終焉!?:マクミランTorがDRMなし直販 (♥)

マクミラン社系のSFファンタジー・ブランドであるTor/Forgeは4月24日、7月までにすべてのE-BookからDRMを外す方針を発表したが、今度は自社のオンラインストアで販売することを表明した(DBW, 6/4)。直販以外も行うかどうかについて、マクミラン社のフリッツ・フォイ技術担当副社長は含みを残している。技術書のオライリー社がやっていることだが、DRMを外せば、直販だけで販売することが可能となり、消費者はアマゾンやB&Nなどの経由せずにコンテンツを購入し、様々なデバイスで読むことが出来る。本誌読者には多くないだろうが、DRMは必須と信じてきた人は、考えを改める時がきた。[全文=会員]

発行人のトム・ドハティ氏はTorのブログで、DRMはこれまで著者や読者から指摘され続けてきた問題で、読者が合法的な購入した書籍を、別のE-Readerに移して読むような、合法的な利用を妨げてきた」と述べていたが、6月にニューヨークで開催されたPublishers Launchでフォイ副社長が述べたことはさらに“過激”だった。「DRMは違法コピーを防げず、かえって快適な読書体験の邪魔になり、著者と読者の両方に対して十分なサービスが出来ない。健全な競争市場も出来ない。」と彼は断言した。これはDRM反対派の主張をそのまま受け容れたもので、最大手出版社の幹部の発言としては驚くべきものだ。今年に入ってから出版社のDRMに対する見方が180度変わったことになる。それでも足りないと思ったか、SF作家のコリー・ドクトロウのような反DRMの論客の援護を得ている。この転換は鮮やかだ。

マクミランの転換の理由としては、ざっと以下のようなものが考えられよう。

  1. E-Bookの最大の価値のひとつであるソーシャル性を制約している。
  2. 著者、読者からの反撥が広がっている(とくにSFファンに多い)。
  3. 海賊版防止という目的にはほとんど役立っていない。
  4. そもそも海賊版は大きな問題ではないことが証明された。
  5. ということは出版社に何も利益をもたらさない。
  6. プラットフォーム(=アマゾン)による読者管理を可能にしている。
  7. J.K.ローリングのPottermoreが成功した。

おそらく最大の理由は最後の2つである可能性が強い。多くのアナリストが指摘しているように、DRMは、小売プラットフォームによる読者のロックイン(囲い込み)の手段となっている。出版社からDRMの鍵を委ねられることによって、アマゾンは容易に消費者をKindleの世界に囲い込んでおくことができる。アマゾンはこれまで著作権者の意向しだいでDRMを外すことに吝かではないと表明しているが、実際のところはDRMに固執する出版社によってマーケティングが容易となっていた。DRMが外れれば、直接ユーザーを管理する手段が失われ、さらにサービス環境、読書体験の充実を迫られることになろう。つまり、プラットフォーム間の競争が促されるわけだ。ソーシャル・リーディングの環境で定評があるKoboは、その環境をKindleやNookのユーザーに対しても広げられる。

PottermoreのDRM外し(電子透かし入り)は、出版社にとってかなり衝撃的なものだったと思われる。すでに数多の海賊版が出ていた『ハリー・ポッター』の違法E-Bookは事実上価値を失った。いずれのプラットフォームのユーザーも、まずPottermoreで登録をした後に購入することになった。出版社を超えて(電子版著作権を持つ)著者による読者管理が可能になったわけだ。この動きは拡大する可能性が大きい。力のある著者と、固定読者を持つ出版社が直販に踏み切れば、それらに対してクラウド・サービスを提供するベンダーが登場する(例えばマイクロソフト)。アマゾンの優位はクラウドそのものというよりその最適化のノウハウなので、その優位が急に覆ることはないが、少なくとも現在のようなひどい技術的格差は縮小するだろう。アマゾンの優位は絶対的なものから相対的なものに変化する可能性がある。

思えば、もともと出版社がDRMに拘ったのは(著者から負託を受けて管理するという、多分に象徴的な意味を重視したものだった。しかし、テクノロジー・プラットフォームを持たない出版社は、都の貴族のようにその機能をベンダー(守護・地頭)に預けるほかなかった。しかし、インターネットの時代は急速に状況が変わる。DRMへの拘りを棄てた出版社は、アマゾンにとってもタフな相手となるだろう。

DRMが完全消滅に向かうことは、おそらくないだろう。しかし、IDPFが5月18日にドラフトを発表したEPUB Lightweight Content Protection (EPUB LCP)のような、オープンなコンテンツ保護の標準が提案されており、大げさな「著作権保護」から「コンテンツ保護」に移行していく可能性はある。多数の読者に対して、3,000円程度以下で販売される商業出版物の大部分について、現在のDRMが(出版社にとってさえ)有害無益な存在になりつつあることは確かだろう。 (鎌田、06/07/2012)

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