ランダムハウス社の新人事にみる成長指向 (♥)

ランダムハウス社はデジタル部門の幹部4名を上級副社長(SVP)に昇格させる人事を発表した(DBW, 07/12)。同社は「多層的デジタル戦略は、当社と出版事業の勢いを加速させる上で不可欠なもので、今回の昇格は、その方向性への着実な歩みを示す」とコメントしている。新SVPは、6月にCOO(実質的な社長)に就任したマデリーン・マッキントッシュ氏の下でデジタル戦略の策定と実行に携わることになる。[全文=会員]

昇格したのは、マイレーナ・アルベルティ(事業開発・戦略担当)、アマンダ・クローズ(デジタル市場開発担当)、ニハル・マラヴィヤ(戦略・分析・プログラム開発担当)、ニーナ・フォン・モルトケ(デジタル出版事業担当)の各氏。マラヴィヤ氏以外の3氏は女性。RH入社は2001年~2004年で、フォン・モルトケ氏(前職はマッキンゼー)以外は金融業界の出身でMBA(ハーバード、NYU)保持者である。出版ビジネスの「生え抜き」はいない。米国(世界)の大手出版社は、デジタルに強い金融業界出身者が優勢になってきた。

このことの意味を考えてみよう。

  • 不振が続く金融から出版ビジネスに経営人材の移動が起きている。
  • 出版はいまや成長産業と考えられている(客観的にもそうだ)。
  • 出版経営において、テクノロジー管理能力は不可欠である。

つまり、出版はいまや経験と勘とコネが幅を利かせる特殊な領域ではなく、世界市場を相手とするダイナミックなマーケティングの世界となってきたということだ。RHの場合は、ドイツ人CEOのマルクス・ドーレ氏は親会社ベルテルスマンのロジスティクス専門家、社長のマッキントッシュ氏(43=写真左)は1994年入社だが、2008-09年の19ヵ月間アマゾンに在籍していたことがある。これが一種の「出向」かどうかは不明だが、いずれにせよKindleの立ち上げの時期にアマゾンにいた経験が貴重なものであったことは想像できる。

MBA+デジタル人材は1990年代以降、金融業界を筆頭にあらゆる業種の企業が必要とした。しかも、彼らは「現場」で能力を発揮する(結果を出す)ことが求められた。1980年代にはNASA出身の「ロケット科学者」がウォール街でトレーディング・プログラムの開発にあたって話題となったが、1990年代に「応用IT」は金融界の常識となり、最も優秀な人材は、Webベンチャーに流れた。2000年代には、アジア・インドなどのグローバルな経営IT人材が製造や流通で多くのイノベーションをリードした。そうした流れを見れば、出版ビジネスにおける新人類の登場が、いわゆる「情報化」の最終段階であることが理解できるだろう。最後の「文系」領域に及んできたわけだ。

さて、周知のように日本企業は経営人材において「IT」「女性」「グローバル」という3つの大きな弱点を抱えている。Yahooは今週、Googleの技術開発責任者であるマリッサ・メイヤー副社長(36)をCEOに引き抜いたが、すでにIBM、HPなど、男性中心の職場と考えられていたIT系企業の多くが女性経営者となっている。日本の出版界が困難な課題を乗り越えるには、新しい人材を求める必要があるだろう。  (鎌田、07/19/2012)

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