米国出版社協会(AAP)は7月18日、会員300社を対象とした出版統計調査BookStatsの結果を発表し、2011年の書籍市場規模(教育・専門書を含む全分野、卸売ベース)が対前年比2.5%減の272億ドルとなったことを明らかにした。しかし数量では27.7億冊と3.4%増加しており、消費行動は落ちていない。E-Bookは引続き拡大を続けており、また出版社の直販を含むオンライン販売が35%も増加して50億4,000万ドルとなり、売上構成比で18.5%を占めている。しかし、さらに注目すべき点が細部にある。
デジタルに慣れた出版社はリーダーシップ回復へ動く
2010年に8億6,900万ドルだった一般書籍のE-Book販売額は20億7,400万ドルとなり、売上のデジタル比は一気に15%となった。しかしこの比率はジャンルによって大きく異なる。メディアがとくに注目するのは、一般書の中心的市場である成年向けフィクション分野で、E-Bookがじつに117%も増えて12.7億ドルとなったこと。数量では238%増で、2010年の8,500万冊から2億300万冊に激増している。このジャンルの印刷本の合計は28.4億ドルなので、デジタル比率は30%(2010年は13%)となり、業界の予想を超えた (AppNewser, 07/18)。児童・青少年(YA)向け図書は12%伸びて27.8億ドルとなったが、これは『ハンガー・ゲーム』などYA向けディストピア・フィクションの大ヒットによるもの。宗教書は2009年の落ち込みから回復したが、この分野のデジタル化などが貢献した。E-Bookは神を身近にしたということか。
BookStatsは、フォーマット別、ジャンル別、チャネル別という3次元でデータをトラックしているので、チャネルにおける変化も観測している。2010-11年はボーダーズの倒産で400あまりの書店が消失した時期と重なるが、書店販売の衰退の速度は速まっている。オンライン販売が35%も増加して50億4,000万ドルとなっているが、これにはアマゾンやB&N.comばかりでなく、出版社の直販の拡大も反映されている。直販は2倍近くに拡大し、初めて10億ドルの大台を超え、11.1億ドルとなった。書店が減少している現状で、出版社による直販はますます重要になってきている。
全体として言えることは、出版社がデジタル革命を現実として積極的に受け入れ、行動を始めていることだ。E-Bookもオンライン販売も、消費者の選択であり、良いとか悪いとか言っても始まらない。出版社は流れに身を任せているわけではない。任せれば浮くような流れではない。金額は2.5%減少したが、数量は3.4%増加し、平均単価は下がった。しかし、デジタル化をうまく使っていれば利益率を向上させたはずだ。書店の減少、消費者のオンライン選考には、マーケティングと直販の強化で対応する。アマゾンなどに任せておけば、市場における地位は低下する。大手出版社はマーケティング機能の強化に取り組んでいるが、これは出版社にとってもマーケティングこそが「コアコンピタンス」で、それが業界再編の軸になることを意味している。
米国を中心とした世界の出版界の動きに最も敏感に反応しているのは、日本では角川グループのみだ。制作は印刷会社に、流通・決済は取次・書店に、という伝統的枠組を壊したくないのは理解できるが、出版事業の縮小の構造的原因を放置していれば、自力でのサバイバルもますます困難になってくる。◆ (鎌田、07/18/2012)