読書もプラットフォームもハイブリッドに

米国の出版シンクタンクBISGが発表した「E-Book読書に関する消費者態度調査」で、E-Bookばかりをもっぱら読んでいる消費者の割合が、2011年8月の70%から2012年5月の60%に、10ポイントの減少を見せたことが明らかになった(PublishersWeekly, 8/2)。同時に、E-Bookあるいは印刷本のどちらか一方に偏らず、ジャンルによって分けている、という人は25%から34%に増加しており、ハイブリッドの傾向が顕著になっている。また、デバイスではKindle Fireが初めて20%台に達し、iPadを抜いた。これらの数字が語ることは小さくないと思う。

Kindleはなぜ強いか:ストアのUI/UX

まず、ハイブリッド化という方向を示す数字は常識を補完するものだ。紙を選ぶかデジタルを選ぶかは、個々の消費者の選択による。ガツガツ読みたいものとじっくり読みたいもの、値段にこだわりがあるものとないもの、書棚のスペースが気になるものとないもの、そして大きな文字で読みたいものとそうでもないもの…。人それぞれで様々なニーズがあり、これまでにもハードカバー、文庫、古本などから選択することは自然に行われてきた。E-Bookはさらに合理的な選択肢が加わったということで、普通に本を読んでいる人間にとっては個々に「選ぶ」ことに何の不思議もない。選択肢の拡大は消費者にとってだけではなく、出版社にとってもプラスになる。だとすれば出版社としては、デジタルをオプションとして用意し、印刷本を安定的に、無駄なく供給することが課題となる。紙とデジタルの価格差が小さければ、それらの関係は排他的となり、共存の余地は小さい。大きければ、「デジタルで読み、印刷本で保有する」ということも可能になる。出版社はマーケティング上のオプションを多様にすることが出来る(価格戦略に関する前号の記事を参照)。

同調査はE-Book消費者の読書デバイスについても調べているが、2011年12月に7%であったアマゾンKindle Fireのシェアが半年で20%となり、17%と動かなかったアップルiPadを抜いた。他のタブレットのシェアは低く、B&NのNookが5%、他のAndroidの合計が8%と多くない。専用リーダのシェアは低下する傾向にあり、Kindleの電子ペーパー製品は、昨年8月の48%から35%にシェアを落とした(その分をKindle Fireが埋めている)。しかしアップルのiPadが2月から5月までで10%から9%に若干シェアを落としたように、タブレットが全体としてシェアを高めたわけではない。B&Nの合計シェアは、昨年8月から今年5月までに、17%から13%へとシェアを落としている。

「タブレット市場」では引き続きiPadが圧倒的で、Kindle Fireもさほどではなく、iPadに次ぐ存在はサムスンGalaxyだ。しかし上述したように、E-Bookデバイスとなると話が違ってくる、ということは、読書体験においてデバイスの占める比重は、サイト(プラットフォーム)より相対的に低い、ということを意味する。タブレットは多用途のガジェットなので、専用リーダのほうが読書に集中できるというのは事実だろう。しかし用途が(メディア消費に)限定されたKindle Fireならば、メールやブラウジングに使わなければそこそこ「集中」もできる。他方でiPad(+iBookstore)は、出版社の期待したようなプラットフォームにはならなかった。iPadの優れたUI/UXでもKindleの牙城を崩せなかったということは、以下の可能性を考えるべきだろう。(左は昨年、オンラインを理解する間もなく消滅した米国の大手書店チェーンBordersの画面)

  1. E-Bookのほか、印刷本と古本も併売するアマゾンの全方位プラットフォームは、フォーマットと無関係に本を読む市場のニーズに適合している。
  2. 2年を経てもiPadの“数的優位”を生かせないiBookstoreは、なんらかの理由でKindleに劣っているか、あるいはアップルは本気で改善に取り組んでいない。
  3. アップルは出版コンテンツ市場でリーダーシップをとることを前提とした出版社の戦略は修正を迫られる。自前でアマゾン依存を下げることが課題となっている
  4. アマゾンと競合するプラットフォームにとっては、デバイスではなくストアのサービスおよびUI/UXで勝負することが求められる。
  5. ストアに必要なUI/UXは、iTunesのような静的なものではなく、Kindleのような動的なものである。動的なものを扱うには、データを集め、生かしきるIT環境が前提となる。

これらは仮説であるが、検討に値すると思われる。楽天/Koboが日本でのサービスを開始し、アマゾンがあえて間を置いている日本で、ようやくデバイスではなくストアとしてのUI/UXに関心が集まり始めた(下記の記事を参照)。いまさらの感はあるが、これはE-Bookにとっての最大の問題であり、これを解決しないと、コンテンツが100万あってもアマゾンに追いすがることは叶わないだろう。(鎌田、08/07/2012)

参考記事

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