米国のアシェット・ブック・グループ(HBG)は7月25日、コンテンツ販売データの報告が同社において適正・正確に行われているとの監査結果を得たことを発表した(→リリース)。2012年1月以降、数十ものチャネルから集められた複雑な売上データが100%適正に処理され、著作権者に報告されたという。HBGはこの体制の確立に当たって音楽ビジネスで実績のあるロイヤルティシェア社 (RoyaltyShare, Inc.)のSaaSサービス、Digital Advantageを初めて採用したが、今後大手出版社で同種のサービスの採用が拡大すると考えられている。販売データの管理はデジタル出版の新しいプラットフォームと言えるだろう。これもアマゾンへの回答だ。 [全文=♥会員]
販売集計=版権料処理=プラットフォーム
印刷本の販売集計システムには確立されたものがあり、著作権者との信頼関係の基礎となっているが、E-Bookはこの数年で急速に拡大し、直販から取次経由まで形態が多様で数も多く、しかもリアルタイムでのレポーティングが期待される。つまり複数の異なるデータ形式を処理できるITインフラが必要で、出版社にとっては大きな負担だ。ロイヤルティシェア社(カリフォルニア州サンディエゴ)は音楽産業のレコード・レーベルのためのDigital Advantageサービスを構築・提供しており、出版業向けサービスの開発については、アシェットなどの大手出版グループと2年ほど前から協力してきたという。今回のHBGの発表は、最終的なチェックが完了したことを意味する。
同様のサービスは日本には存在しない。出版社はまだ(金額も少ないので)版権料支払管理と一体化したデジタル販売集計の煩雑さにあまり気づいておらず、版権料の支払いルールも確立されていない。しかし、アマゾンがKindleを立ち上げると状況は変わってくる。アマゾンは著者向けの販売レポートを行っているので、著者は日々の販売に関心を持つようになるだろう。アマゾンのレポーティングが有力なターゲットとなることは間違いない。アマゾンが著者向けのサービスを行うのは、以下のような意味があると推察される。
- アマゾンの販売力、著者へのサービス姿勢をアピールする
- 著者をアフィリエイト化し、自著の販売に積極的に協力してもらう
- 自主出版プログラムあるいはアマゾン出版の利用を促す
- 出版社を牽制する
- ライバル企業を圧倒する
効果は絶大で、アマゾンは多くの著者の支持を得ることができた。業界全体に対して「データ力強化」の自覚をもたらしたことは言うまでもない。ロイヤルティシェアのサービスは、そうした背景で生まれている。こうしたサービスは日本でも一つの目標となるだろう。E-Bookのプラットフォームについては、これまでデバイスやフォーマットといった瑣末な部分への関心が先行し、ようやくクラウド型書店が問題であるという認識が広がったが、販売データ+版権料決済はそれ以上の「プラットフォーム」だ。これは書籍出版を超えて、デジタルコンテンツ全体と連携するものとなるだろう。◆ (鎌田、08/09/2012)