マードック系ハーパーコリンズ社のヴィクトリア・バーンズリーCEO(UKおよび海外事業担当)が、コリンズ世界地図アプリ版のリリースを前にしたThe Observer紙とのインタビューで「当社はもはや書籍出版社ではない」と述べて話題となっている (Juliette Garside, 08/26)。辣腕の出版人であり、多くのセレブ自伝のベストセラーで知られる彼女だが、21世紀の出版がデジタル主導となることにまったくの疑いも持っていない。
出版業界ではこの10年間、過去数百年に起きた以上の変化があった、と語るバーンズリーCEOは、自ら設立した出版社をニューズコープに売却して英国HCのトップに迎えられてから12年目。アマゾンKindleの登場を歓迎し、成長分野としてのデジタルにフォーカスしてきた。今秋発売するCollins World Atlasは最もポピュラーな世界地図帳の一つだが、タブレットを想定したデジタル版は数年を費やしてゼロから編集・開発した。衛星写真のほか、人口、エネルギー、通信などのテーマ別のビューが見られるようになっている。タッチスクリーンを使った対話型のインタフェースは、データをマッピングした最新のインフォグラフィックを簡単に利用できるようになっている。これはコリンズ世界地図の電子版ではなく、オリジナルな地図アプリだ。
バーンズリーCEOは、今後18ヵ月でフィクション分野の売上の半分以上がE-Bookになると考えている。印刷本が1.2億ポンドで横ばいなのに対して、現在売上の20%を占めるE-Bookが年率250%で伸びているからだ。それは積極的なマーケティングによってのみ可能となる。HCはエージェンシー価格制を攻撃的に使い、販売状況をリアルタイムでチェックして価格更新を自由に行えるようにしている。そのためにアメリカンエクスプレスからデータ分析専門家を引き抜いた。こうしたセンスは、ヒット・タイトルの開発だけに情熱を注ぐ伝統的出版人のものではない。出版のデジタル化は、業界で一律に進むことはなく、マーケティング能力による格差を拡大させて進行すると思われる。◆ (鎌田、08/30/2012)