米国書籍流通大手のイングラム・コンテンツ・グループ(ICG)社は8月9日、従来の価格を3分の2あまりも下げた、オンデマンド印刷(PoD) 向けの「スタンダードカラー」印刷価格モデルを発表した。これは高速インクジェット・プリンタを利用したもので、同社はこれによりグループのライトニングソース社を通じた高速・低価格のPoDサービスを世界的に展開する体制を構築した。絵本や写真集、マンガのペーパーバックの在庫レス化が手に届くところにきたようだ。これはゲーム・チェンジャーになる新技術=サービスと言える。[全文=♥会員]
カラー・ペーパーバックが1冊単位で5ドル、100部単位で3ドル以下
カラーPoDで120ページのペーパーバック(15×22.5cm)を1部製作する場合、これまでは$12-13.50で、コンテンツの価格に上乗せするとあまり現実的ではなかった。しかしICGのスタンダードカラーは、1冊単位で$4-5、500部までなら$3以下になる。200円台というのはかなり現実的な付加価値と言えるだろう。ライトニングソースは、年末までにテネシー州とペンシルヴァニア州の施設に新設備を導入、来年春には世界展開する計画で試験を行っている。同社によれば、Premium ColorとStandard Colorの品質上の差はあまり感じられないほどだったという。
Publishers Weeklyの記事 (Todd Allen, 8/9) は、業界の反響を伝えているが、イングラムがこのサービスをクラウド・ベースで利用可能にするAPIやアフィリエイト・プログラムを提供すれば、ソフトウェア開発者はコミックやグラフィックノベルの印刷版をタブレットやスマートフォンから注文する機能を開発することができると考えられている。ベータテストに参加したオライリー社のローラ・ボールドウィン社長は、「PoDはオライリーの戦略にとって不可欠なもので、テストの品質は最高。変化する市場にあって、イングラムのカラーPoDは、全世界の読者に向けたカラー出版を拡大しつつコストを低減する重要なオプションになる」と評価している。
PoDのインパクトについては、あらためて論じたいが、カラーPoDはまさに出版業界のゲーム・チェンジャーとなり得るものだ。例えば、以下のような変化が容易に予測できる。
- カラー出版物の敷居を大幅に下げる(小出版社、自主出版者でも参入)
- 大量生産/大量廃棄から計画生産/オンデマンド印刷に転換
- デジタル・ファーストへの流れを加速する(→プリントPDF+EPUB)
- 出版物のバックリスト管理を根本的に変える(在庫レス)
日本についていえば、流通システムの変化が加速する。また「絶版」がなくなることで、むやみに新刊を濫発すことから、既刊本のマーケティングを重視するように変化していくだろう。これまでE-Bookといえば、「スクリーンで読む本」と考えられていたが、「印刷またはスクリーンで読む本」(つまり「本」)に変わる。価格に対する意識も変わることは言うまでもない。◆ (鎌田、08/23/2012)
参考記事
- Ingram Makes Color Print-On-Demand More Economical, By Todd Allen, Publishers Weekly, 08/09/2012
- How Affordable Color POD Could Change the Comics Industry, By Todd Allen, Publishers Weekly, 08/20/2012