米国で著者と出版社によるトーク・イベント(ブックツアー)を支援するプラットフォーム事業、Togather.comが起業した。ニューヨークのメディア・エージェンシーHuge社が出資し、自らも自著のプロモーションでブックツアーを経験し、SNS時代のF2F(対面)コミュニケーションの効果を確信するアンドリュー・ケスラーCEOが創業したもの。バーチャル(SNS)とリアル(F2F)は相互に補完的なものなので、そのインタフェースまで提供できるようになれば、重要なプラットフォームに成長する可能性がある。
出版社は敬遠するも著者が強い関心
ブックツアーは、古典的なマーケティング手段で、各地の図書館や書店などを回ってトーク・イベント+サイン会を開催し、読者と触れ合うことが出来るので、固定ファンを獲得するのに有効とされている。とはいえ、1回に数十人、時には数人の読者と話をするために米国各地を回るというのは、かなりの体力・気力が必要。最近ではSNSで代用するのがトレンドで、ツアーは廃れていると言われていた。実際、出版社の営業は重視しなくなっているようなのだが、逆に著者はこのユニークなチャネルへの関心を高めている。8名あまりのスタッフでスタートしたTogather.comの新ビジネスが注目されるのはそうした点だ。
図書館員や書店経営者は、サイトを通じてイベントの情報を得る。サイトは著者のスケジュール(地域×日程)の情報を提供し、イベントの企画者はプラットフォームを通じて直接著者に提案することが出来る。著者に対しては、イベントの成功を、(1)イベントでの最低販売部数、(2)最小参加人員の保証、(3)著者指定の講演料、のいずれかで保証する。企画者は入場料をとって費用をカバーすることも出来る。企画者と著者との間で条件が合意されると、Togather.comでイベント・ページが生成され、申込み・登録・決済を受け付ける。サイト側では本(30%)とチケット(5%)の販売手数料を得る。当面は印刷本のみだが、E-Bookも扱うとしている。
2年あまり前、ロサンゼルス・タイムズ紙に、2,500ドルと1ヵ月かけて8,500マイルを踏破し、自作の販売ツアーを行った著者についての記事が載った。ちょっとした大旅行だが、満足感(達成感)は大きかったようだ。(1)著者と会いたい人は機会が少ない地方に多く、(2)書店の閉鎖で「無書店地域」が拡大していること、(3)著者による朗読のライブは独特の読書体験をもたらす、(4)読者との触れ合いで得られる著者の精神的充実感、などだ。地理的に狭く、市場権が東京圏、京阪などに偏る日本では、有名著者の講演会やサイン会はあっても、自分の本を売るための「ツアー」は聞いたことがない。しかし、SNSを起動するのがイベントであるとすれば、ブックツアー以上のイベントはない。数千部売るための手段とすればかなり現実的なように思える。 ◆ (鎌田、08/07/2012)
関連記事
- New Start-up Wants to Bring Book Tours Back, Launched by Unlikely Source, By Jeremy Greenfield, Digital Book World, 08/06/2012
- Togather.com Helps Crowdsource Book Events, Huffington Post, 08/06/2012
- Book tour? More like a safari, By Carolyn Kellogg, The Los Angeles Times, 03/07/2010