デバイスのパワーアップでKindle戦略が新段階へ

アマゾンは9月6日、ロサンゼルスでの新製品発表でKindleおよびKindle Fire (KF)の新世代版を発表した。強力なハードウェア、高精細ディスプレイ、低価格といった仕様がまず目を惹くが、昨年登場したX-Ray、看板であるWhispersyncなどのクラウド・サービスも強化されており、時間とともにそちらが注目されることになろう。発売・出荷は9月14日から11月20日にかけて行われ、アップルが発売を予定していると言われるiPad miniとともに秋からホリデー・シーズンの商戦をリードするだろう。

「Kindle Fireはサービスである」

「ガジェットではなくサービス」とベゾスCEOが言うとおり、これらはサービスを提供するためのプラットフォームの一部だ。しかし、サービスはデバイスに制約されるし、デバイスは他社(直接的にはiPad)との比較の対象となる。サービスは使って見なければ価値が分からないが、ガジェットは買った瞬間に満足を提供できなければならない。ガジェットを使うサービスというのは、そう簡単ではない。昨年のKindle Fireは、iPadを意識したものではないことが強調され、実際クラウド・サービスを除けばiPad 2と勝負できるのは価格だけだった。デザインは失敗したRIM PlayBookの焼き直しで、オリジナリティに欠け、気の利いた機能は何もない。アマゾンでもなければ推定600万台も売ることは不可能だった。

しかし、このKF1を通じて、アマゾンは画期的なことをなしとげた。米国のタブレット市場で22%を獲得した、とアマゾンは述べているが、それじたいはiPadの圧倒的な成功の前では意味はない。重要なことは、専用リーダKindleのビジネスモデルを、そのまま非書籍系コンテンツと一般商品購入にまで拡張することに成功したということである。かろうじてタブレットだと言える最低の仕様に、業界最高のクラウドサービスを載せて、限りなく低価格で販売するというやり方である。ビジネスモデルは拡張が難しいものだ。

昨日の発表でも、ベゾスCEOが強調したのは「Kindle Fireはサービスである」ということだった。「消費者は(一時の満足しか与えない)機能やスペックよりも、(使っている中で改善を続ける)サービスを望んでいる。」という信念を、ビジネスモデルとして設計し機能させることは至難だ。「アマゾンはお客様がデバイスを使った時に稼ぐ。買った時ではなく。」というモデルは、もともとガジェットとは遠いE-BookリーダのKindleで確立したが、それをガジェットの最激戦地であるタブレットに拡張したことは、かなり凄いことだったと思う。

「どの価格帯でも最高のタブレット」

以上のことを頭においてみると、KF2がただ強力なハードウェアというだけでなく、強力なサービス・プラットフォームになるようにデザインされていることがわかる。今回、アマゾンは「どの価格帯でも最高のタブレット」を目指した、と宣言し、iPad 3との比較を強調した。最高レベルの通信サービス(4GとLTE)を利用可能な8.9型のKindle Fire HDは、$499(32GB)という低価格で、比較可能なiPad 3よりも400ドルほど安い。独自開発のアンテナを使ったMMO (Multiple In Multiple Out)技術でiPadより速いと主張している。強力なプロセッサとグラフィックエンジンを採用したことで、KF1で省略されたマルチメディア機能は、かなり大胆に搭載された。2系統のステレオ・スピーカー、ドルビーサウンド、前面HDカメラ、HDMI、Bluetoothなどだ。

しかし、こうしたスペックは、アップルiPadやサムスンGalaxyによって塗り替えられるだろう。アマゾンの独自技術はX-RayとWhispersyncにあり、前者は書籍だけでなく映画にまで拡大され、後者はゲームや音声にまで拡大された。これらについては別に見ていく必要がある。また、サービスといえば、年間50ドルの4G LTEパッケージがある。すべてこれらはコンテンツやモノの消費に最適化されている。「つねにお客とともにあり。お客が得をしたときにだけ儲ける」というアマゾンのドクトリンがここにも見える。Kindle Fire HDとともに、アマゾンの戦略は新段階に入った。目指す方向はアップルとは違うが、確実にアップルにも影響を及ぼすものとなろう。 (鎌田、09/07/2012)

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