経営不振に陥っていたニューヨークのジャンル(風俗)小説出版社、ドーチェスター出版が保有する千点以上のタイトルの版権を、アマゾン出版(シアトル)がオークションで落札したことが明らかになった (→リリース)。これにより、著者印税の未払い分が清算され、アマゾン出版は落札したタイトルの発行を引き継ぐことになる。シアトル社は一挙にリストを拡充した。なお、著者が希望しない場合は、他の出版社を選択したり自主出版することも可能。作家や著者エージェントはいずれも歓迎のコメントを寄せている。アマゾン出版はジャンル・フィクションで買収を繰り返しており、この E-Book での成長分野で橋頭堡を築きつつある。[全文=♥会員]
マーケティングしだいでジャンル・フィクションは宝の山に
ドーチェスター社は犯罪小説、恋愛小説、恐怖小説など“風俗物”得意とするマスマーケット本(ニューススタンド向け返品不可の売切ペーパーバック)の出版社だが、この市場はE-Bookで最も大きな影響を受けており、アマゾンに継承されるのは順当とも言える。というのは“風俗物”はE-Bookフィクションの最大市場といってよく、それを最もよく知るのがアマゾンだからだ。この市場は、玉石混交ながら、安価で一定の満足感を提供し、安定した売上が見込め、時に傑作や大ヒット、旧作リバイバルにも恵まれるという、出版マーケティング上きわめて重要な分野である。ニューススタンドという人間の移動する場所で販売されてきた「マスマーケット」本は、人間とともに移動するデバイスの登場で、早くデジタル化が進むことになった。
ドーチェスターがこの変化に気づくのが遅かったわけではない。同社は2010年、6年間で25%も売上がダウンしたマスマーケット本市場を見限り、完全電子化に踏み切ると発表して注目されている(Wiredの記事参照)。しかし、結局のところデジタルに切替えただけでは崩壊を食い止めることはできず、印税不払いという最悪の状況に陥った。ロマンス市場をリードするハーレクインは売上を伸ばしているが、これはそれなりの体制があってのことだ。マーケティング能力を持った出版社はむしろ少ない。
アマゾンは、エド・マクベインやアガサ・クリスティ、イアン・フレミングのような大御所からパルプ・フィクションまで幅広くタイトルを揃えていくものとみられ、経営不振あるいは倒産した出版社の保有していた版権を買い集めている。今年6月には1950年創業の中堅、Avalon Booksを買収し、ミステリ、ロマンス、ウェスタンの3,000点以上の版権を得た。少なくとも大手の傘下にない独立系の多くを併合しそうだ。アマゾン出版のシアトルはジャンル別にブランドを細分化し、47North(SF、ファンタジー、ホラー)、Montlake Romance(恋愛)、Thomas & Mercer(ミステリ)、AmazonEncore(ウェスタンその他)の4つを保有している。ドーチェスターのタイトルはこれらのブランドのいずれかから、ペーパーバックとKindleの両方で提供される。 ◆ (09/05/2012)