コミック出版に新しい資金調達手段 (♥)

テキサス州ワコのデジタルコミック出版社 iVerse (アイヴァース)が、コミック出版プロジェクトに関するクラウドファンディング・プラットフォーム、ComicsAccelerator (コミック・アクセレレーター)を今月末に立ち上げる。先行しているKickstarterは、今年2月に“Order of the Stick” というWebコミック・プロジェクトで125万ドルという記録的な出資を集めており、出版金融の有力な手段としてのソーシャル・ファンディングじたいが新しい出版ビジネスのエンジンとして浮上しつつある。[全文=会員]

コミックで伸びるクラウド・ファンディングにアプローチするComicsAccelerator

ComicsAccelerator (CA)は、プロジェクト管理手数料として総額の5%を徴収する(PayPal手数料を含めれば7.9%+$0.30)。上限のないKickstarter (KS)と違って、手数料の上限を$2,500に制限している。同じく5%を徴収するKSには手数料の総額に上限がないので、出資が5万ドルを超えるとCAのほうが有利になるということだ。仮に10万ドルを集めたとすれば、KSは5000ドルでCAなら半分で済む。稀にしかあり得ないが、100万ドルともなれば5万ドルと2500ドルで、心理的にはCAが魅力的に映るだろう。この価格設定は、明らかにKSをターゲットにしている(First Comics News, 7/12/2012)。

CAはさらに、パートタイムあるいは業余でプロジェクトを行う最低限の資金で始めながら、可能ならそれを本業にしたいクリエイターのためのReserve Funding(準備金)に回すこともできるオプションを用意している。これは資金を必要とするクリエイターの事情をよく理解していると思う。KSはコミック以外にもクリエイティブ・プロジェクトに幅広く使われているが、CAはコミックにフォーカスしている。ただし「コミック関連商品」ということなので、キャラクターTシャツやアニメ、映画でも構わない。

アイヴァースのマイケル・マーフィCEOのコメントがPublishersWeeklyに紹介されているが、クラウド・ファンディングがコミック作家の将来を変えるものに成長すると感じているようだ。マーフィCEOは、クリエイターはコミックに関する権利を自ら保有すべきだという考えを持っており、同社の活動はそれを支援するものとしている。同社はデジタル・コミック出版事業も行っているが、DRMフリーのPDFでコンテンツを提供する計画を持っている。独立系クリエイターのほとんどはDRMフリーを選んでいるのに対し、多くの出版社は(理解は示すものの)踏み切れていないという。米国のデジタル・コミック用フォーマットでは、.CBZ/.CBRが共通フォーマットとされているが、市場からのニーズがないのでPDFで提供している、とマーフィCEOは述べている。.CBZ/.CBRにはまだ一定の制約がある一方、PDFはリーダの選択肢も多いというメリットがある。

フルタイム・クリエイターを支援

Kickstarterがコミック出版プロジェクトに活用されて、有力な資金調達手段と考えられるようになったのは昨年のことだ。確率は低いが“Order of the Stick”のような100万ドル超のプロジェクトも数本を数えるまでになった。コミックは「キャラクター」を確立してしまえば、固定ファンが得やすいので、活字出版よりは向いているのかもしれない。クリエイターが資金を必要とするのは、直接的には編集・制作費を捻出することで、作品として世に出したいからだが、ほとんどはそれによって商業的に成功し、フルタイムで創作に従事できるようになりたいという希望を持っている。逆に言えば、現状では作品が出版社に採用されて、出版社のリスクで刊行に至るまでのハードルが高く、仮に出版できても出版社が権利を押さえているので、後々も楽ではないという現実がある。出版社は過去の商業的失敗のツケを負っているので、(強欲でない場合でも)作家に気前よく配分すれば自ら首を絞めることにもなるからだ。

デジタル出版およびオンデマンド印刷は、物理的な出版コストを劇的に下げたが、それは別の問題を生じることになった。物理的コストほど明確ではないがサービスに分類される2種類のコストを誰が負担するかということ、額がそう多くないので、ボランティアでもなんとかなるスケールなのがかえって問題になる。

  • 編集+デザイン and/or プログラミング・コスト(/能力)
  • マーケティング・コスト(/能力)

しかし、これらに加えてクリエイターの「生活費」がある。これがどれほど切実か、また複雑かを理解する出版関係者はそう多くない。給与生活者には難しいだろう。クリエイターもふつうの人間と同じく、物理的生存に必要な費用、文化的生活に必要な費用が必要だが、同時に金銭的報酬を伴う「成功」を目標とすることができる「機会」を必要としている。アイヴァース社はDRMフリーを提唱しているが、それは出版ビジネスの主体が販売プラットフォームでも、出版社でもなく、クリエイターであるのがベストであるとの信念による。ComicsAcceleratorは現在ベータ・テスト中で今月末にスタートするようだが、このコンセプトが社会の支持を得れば、たしかにコミック出版の可能性が広がるだろう。 (鎌田、09/13/2012)

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