NYタイムズ傘下のボストン・グローブ紙とMIT Center for Civic Mediaは9月21日、MITの研究プロジェクトおよび新技術に関する問題意識や情報を共有しつつ、グローブ紙のWebサイトを通じて全世界の読者に継続的に紹介していく共同事業についての発表を行った。新聞側では、Globe/MITでベストプラクティスを確立することにより、学術研究のメッカであるボストン地域の大学群との連携に拡大し、新聞の新しい経済基盤とすることを目指している。[全文=♥会員]
大学との連携でシビック・メディアとしての新聞の新しい経済基盤を探る
この共同事業は、ナイト財団から25万ドルの支援を受けて行われる。グローブ紙はMITとのリエゾンなるコーディネーターとテクノロジストを採用するほか、Civic Mediaから4名の奨学生を受け入れる(2名は夏季の3ヵ月間、2名は冬季の1ヵ月間、合計8人月)。MITは、金融、医療、製造などの分野で指導的な層を含むグローブ紙の読者に対して継続的な情報発信のメディアを手に入れ、新聞は伝統的な求人広告に代わる収益源を構築する(少なくとも)手掛かりを得ることになるだろう。メディアラボ所長を務める伊藤穣一氏はこの7月にニューヨーク・タイムズ社の社外取締役に就任したが、このプロジェクトが最初の具体的アクションとなるとみられる。
周知のように、ボストンはいくつかの分野で全米をリードするほか、屈指の大学都市であり、周辺地域を含めれば大学数は100を超え、全世界からの学生は25万人を超える。それ自体が巨大な可能性であり、それだけを見るなら、この都市の新聞が赤字に苦しむこと自体が間違っているように見える。これまで「商売」について考えたことがなかったということだ。とはいえ、Globe/MITの提携、あるいは新聞と大学の提携は、何でも出来そうな反面、そう簡単ではない。米国の一流大学は、教育機関である以上に研究開発ビジネスの複合体であり、研究プロジェクトの紹介ということでは、大学あるいは研究チームが個別に行っている。またMITはTechnology Reviewという優れた技術雑誌を有している。したがって、新しいプロジェクトは、まずMITの研究者に対して、ユニークでかつ十分なメリットを提供できないと使ってもらえない。(写真は、グローブ紙のデジタルサービス担当でプロジェクトの責任者、ジェフ・モリアーティ氏)
研究者たちがGlobe/MITをメディアとして積極的に使う気になれば、そのサイトは世界最先端の研究開発情報の有力な発信源となり、社会から資金を誘引し、新聞もシェアすることができるだろう。研究者はNSFやNIHのような連邦機関から民間企業まで、先端技術開発に資金を提供する幅広い資金提供者に対し、研究対象、目的、応用分野、商業的・社会的意義を説明し、同時に(とくに公的資金を得たものは)、その成果について社会に告知・普及させる必要がある。評価・査定は厳しく、競争も激しいので、継続的により大きな資金を確保するためには、コミュニケーション能力が欠かせないが、スポークスマンの役割は研究リーダーには大きな負担である。スポンサーに説明し、大学院生に給料を払い、プロジェクト管理も行う、という小企業経営者の負担を軽減してくれるのであればメリットとなるだろう。ただしそれには、CCMとグローブ紙のほうで、必要なテクニカル・コミュニケーションのスキルと最適なテクノロジーを育て、研究者のニーズに対応できることが条件となる。
C4FCM(2007年設立)は、日本でも知られるMITのメディアラボ(Media Lab)と比較メディア研究プログラム(Comparative Media Studies Program)の合同プロジェクトで、以下を目的としている。
- ジャーナリズムおよび公共政策実践の発展を支援するテクノロジーを開発する
- ジャーナリズムの研究・分析のための国際的情報源として機能する
- 米国内および国際的なコミュニティ・ベースの実験プロジェクトを連携させる
ジャーナリズム研究ではコロンビア大学などが知られているが、MIT (C4FCM)は、近代市民社会の血を引く 'citizen journalism' に対置する 'civic media' というコンセプトを掲げ、テクノロジーとメディアという視点からアプローチしようとしている。グローバリゼーションとネットワーク時代のメディア・ジャーナリズムということだが、Globe/MITのプロジェクトはその試金石となるだろう。( 'civic media'については、C4FCMのドキュメントを参照)。 ◆ (鎌田、09/26/2012)