本屋は電子書籍の夢を見るか:トーハンc-shelf

トーハンは9月3日、デジタルコンテンツの店頭販売システム「c-shelf」を12月から全国の取引先書店に提供開始すると発表した(→リリース)。初期導入店数は約3000店舗を予定する。店頭で選書、現金決済できる売場環境を整備することで、来店の動機付け、読者サービス向上を実現しようというものだが、かなり複雑・煩雑なやり取りによって、読者がどれだけのサービス価値を得られ、それによって書店が何を得られるのかが見えない。読者あるいは書店とE-Bookの関係を真剣に考えているように思えない。

フローが7まであるc-shelfのしくみについては簡単には説明できそうもないので、下のとリリースを参照していただきたいが、以下の3つの素朴な疑問に答えていないように思われる。

  1. こうまでしなければ書店は電子書籍を扱えないのだろうか、
  2. こうまでして電子書籍を扱う必要が書店にあるだろうか、
  3. 消費者がこの方法で購入するメリットはどこにあるだろうか、

「電子」を使う唯一最大の意味は「簡単」にできるということだ。読むのにリーダを必要とし、印刷本に比べて安くもなく、古本屋に持っていくこともできない現在の「電子書籍」を面倒な方法で購入するほど、消費者はヒマでも裕福でもないし、「電子」に愛着を持っているわけでもない。おそらく、厳密なユーザー・テスト(UI/UX)を経たものではないこうしたサービスを、日本の出版界を代表する企業が開始するのは理解に苦しむ。(1)については、米国書店協会(ABA)がGoogleと組んで開始し、Koboが継承した(書店のWebサイトを使う)プログラムがある(前号記事参照)。(2)については、深刻な状態にある書店のほうにニーズがあるという話を聞いていない。英国のウォーターストーンズ書店はアマゾンKindleを平然と販売し、自社でもE-Book(EPUB/DRM)を販売している。(3)についてはポイント制その他のサービスとパッケージされていないので見えない。

図書館と書店との関係と同様、実書店とオンライン書店の関係は、実態が不明だ。解明するにはかなり厳密で徹底した調査が必要なのだが、金と手間がかかり、受益者がはっきりしない調査には予算がつかないので、「都市伝説」のレベルのことしか分からない。書店で立ち読みしたものをオンラインで購入する、という人がいることは確実だが、アマゾンで知って書店で買う人もいる。そもそも、そんなことは書店間でも起きるし、小売業界であれば常識的に起きているわけで、本についてだけ問題にする理由はない。筆者はスーパーや量販店で価格をチェックしてアマゾンから購入することがよくあるが、それは嵩物や重量物であることが多い。書店だけが被害妄想的になっているとしたら悲しいことだ。

このサービスを考えた人たち、予算をつけた人たちには、ぜひ月に5冊くらいは「バウチャー」(電子書籍引換券)を使って読書体験をお楽しみいただきたい。「己の欲せざるところ、人に施すなかれ」と言うではないか。 (鎌田、09/06/2012)

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