アマゾンの統合型戦略プラットフォーム(♥)

アマゾンのコンテンツ製作部門である Amazon Studiosは10月3日、アマゾン出版のSF・ホラー系ブランド「47North」でベストセラーとなったゴシックホラー 'SEED' (by Ania Ahlborn)の映画化権を取得し、映画脚本と続きもののエピソードを募集して製作することを発表した。本と映画の相乗効果は既知のことだが、読者によるリクエストが多い作品を映像化し、コンテンツビジネスの枠を拡大する試みとして注目される。クラウドソースの利用はコミックの 'Blackburn Burrow'などで試されており、自主出版に始まるアマゾンの様々なコンテンツビジネスを連動させた壮大なプラットフォームが始動したことになる。 [全文=会員]

自主出版、クラウドソーシング…すべてを駆使するプラットフォーム

アールボーン(写真左)のSEEDは2011年半ばに自主出版作品としてアマゾンに登場、まったく宣伝をせずにホラー部門のトップに上り詰めた。さらに著者によるプロットの手直しと6000語にも及ぶ書き足しを経て、47Northから改訂版が刊行された。Amazon Studiosは3,000ドルの賞金をつけ、ファンが参加するトレイラー・コンテストを実施し、作者が選出した。経緯から垣間見えるように、このプロジェクトは、アマゾンのビジネスモデルのパイロット的な意味を持つ。つまり、反響の大きかった自主出版作品の中から自社出版すべきものを選び、編集者を付けて完成度を高めた形で出版する。この時には固定ファンが形成されており、さらにシリーズ化の骨格もできているだろう。あとは映像化を望むファン、映画化のため素材を探しているクリエイターが参加してコンペを行い、映画チームを編成して製作する、というものだ。もちろん、映画コンテンツはアマゾンで販売/レンタルする。

完成度の高いものにするのは時間がかかる。SEEDの場合も2年前に自主出版市場に登場した時から起算すると、映画の完成には2年はかかる可能性は高い。スーザン・コリンズの 'Hunger Games' (Scholastic)のように映画がヒットして小説がさらに売れ、また続編も…というサイクルができるまでにはさらに数年かかるかもしれない。しかし、アマゾンのモデルでは、版権、映画化権、映像著作権は、基本的に著者とアマゾンの間で取引される。マーケティングのプロセスも早い時期から行っており、出版とは桁が違う映画化のリスクを最小化することができる。アマゾンが狙っているのは時間の短縮ではなく、(1)リスクの低減と、(2)ライフサイクルを通じたコンテンツの価値の最大化だ。

自主出版のジャンル・フィクションからマルチメディア・コンテンツ事業を育てる

Hunger Gamesは、これまで書籍の売上が2,600万ドル、北米での映画興行収入が1,500万ドル以上に達している。エンターテイメント性の強いジャンル・フィクションは、これまでも出版社を潤してきたが、1,000万部単位の書籍を印刷本として流通させると、流通在庫が積み上がり、読者が飽きるのも早いので古本市場にも還流してきて売れ残りのリスクが大きくなる。売れ残った本は書店が卸値以下で売り切るので収益を圧迫する。E-Bookののメリットは、機会を逃さないタイムリーな販売とともに、じつは返本防止、古本還流抑制にあるのではないかとさえ思える。最近の「超ベストセラー」はE-Book比率が高いと言われるが、これはシリーズ作品が多いだけでなく、リスクの高い紙に頼る必要がないことと関係がある。アマゾンはデータからその最適な運用方法を知っている。

アマゾン出版はたんなる成功した大企業の出版ビジネスなどではなく、アマゾンの半開放系のエコシステムにおける歯車の一つという位置づけがはっきりしてきた。SEEDが成功するかどうかはもちろん皆目不明だ。しかし、アマゾンは粘り強く続けていつかは成功させるだろう。出版がそうであるように、その道の一流のプロを配置するからだ。

ジャンル・フィクションは、読書界の低評価にもかかわらず、一般的な出版のイメージを超えた、かなりダイナミックなビジネスの世界を現出する。デジタル・マーケティングは、自主出版から映画まで、バラバラな個々のビジネスを統合することで可能性を最大化し、リスクを最小化する。アマゾンはまずプラットフォームを構築し、個々のプロセスでは無理をせず、十分な時間をかけて動かしていく。これがアマゾンの必勝パターンで、呆れるほど堅実だ(そして面白みがない)。

アマゾンはこのプラットフォームを世界的に拡張していく。コンテンツ市場はグローバル、原作者も、各種クリエイターもグローバルとなる。しかし考えてみれば、マンガと雑誌(広告)で儲け、書籍で出版社の肩書を維持する日本の大手出版社のビジネスモデルも、そろそろ限界がきた。規模が生存可能性を高めない21世紀の現実には、マーケティング以外のアプローチは考えられない。 (鎌田、10/04/2012)

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