米国図書館協会(ALA)は11月28日、モウリーン・サリバン事務局長(写真=下)の出版社団体(APA)宛の公開書簡(9/24)や図書館のE-Book貸出に関する調査レポートの公表に続き、問題の公共性を広く伝えるためのメディア・キットを加盟図書館に配布したと発表した。デジタル時代の読書エコシステムにおける図書館の積極的役割を訴えることで、E-Book貸出を渋るグローバルな巨大出版グループに対する圧力を強め始めた。
デジタル時代の図書館のための3原則
協会のDigital Content and Libraries Working Group (DCWG)が作成した“ALA E-book Media & Communications Toolkit”(E-Bookに関するALAの広報資料集)と題されたキットは、ハンドブック、FAQ、メディア寄稿用テンプレート、サンプル、新聞・放送の取材などへの対応指針、調査データなどからなる懇切丁寧なものでALAのサイトで公開されている。おそらくデジタル時代の図書館の積極的役割、E-Book貸出問題についての主張と根拠を余すところなく説明したもので、図書館の危機に立ち向かう“武器”を揃えている。恐らく大手出版社も、この6万名近い会員を擁する団体の政治力が(敵に回したなら)容易ならざるものであることを知るだろう。DCWGは8月に“Ebook Business Models for Public Libraries”(公共図書館のためのE-Bookビジネスモデル)というペーパーも発表しており、
- タイトルの網羅性(一般に発売された出版物は図書館も入手可能とすべき)
- 権利の永続性(貸出プラットフォームの利用、期間などにおける制約の排除)
- 出版社によるメタデータと管理ツールへのアクセス)
の3点を原則的主張として打ち出している。(3)はやや異質だが、これは本の見つけやすさ(discoverability)に関する情報が(部分的にせよ)出版社や流通企業に独占されることへの危惧の表明といえよう。技術的な説明は機会を改めたいが、データベースの正規型で表現できる伝統的図書館情報学を超えた「生きたマーケティングとしての見つけやすさの技術」が、図書館の外で発展している。アマゾンが一人勝ちする最大の秘密だが、知識情報へのアクセスの公共性に立脚する図書館の機能が損なわれてはならないとALAが主張するのは理解できる。
こうした資料はぜひ日本の関係者にも一読をお薦めするが、ALAのキットはよく準備されたもので、出版社が反論することは容易ではない。弁護士だけではすまず、版権者の権利侵害の客観的な事実に基づく立証、出版社の社会性の担保、図書館との関係の公正・妥当性の担保手段を効果的に主張する方法を探す必要がある。しかしメディア論などの学者の協力は期待できそうもない。遠からず降伏することになると思われる。◆(鎌田、11/29/2012)