ジャーナリズムはソーシャルで再生できるか?

大手新聞社のデジタル対応(収入源探し)が難航する中で、ソーシャル・ファンディング・プラットフォームのKickstarterで14万ドル(2,566人)の基金を集めてスタートした科学技術ジャーナリズム出版プロジェクト Matter(サンフランシスコ) は最初の有料記事を発信した。0.99ドルでKindle Singleと同社のサイトからダウンロードできるほか、ソーシャル化する仕組みも。いまやニュースメディアの存続は広告モデルに、絶滅危惧種になっているジャーナリストが21世紀に生き残れるかどうかは、ソーシャルにかかっている。

Matterは GigaOMの欧州版編集長、ボビー・ジョンソン氏がジャーナリストのジム・ジャイルズ氏と創業した。長文記事をショート・コンテンツ化して電子出版するプロジェクトには、Byliner や Atavist などがあるが、これらがノン・フィクション全般を扱うのに対して、Matter は科学技術分野に限定している。5,000ワード以上の記事を毎月定期発行し、Kindle Store(まもなくiTunesも)のほかに独自サイトで直販もする。後者の場合はMobiとEPUBフォーマットのコンテンツがダウンロードできる。

Matterの最大の特徴は"ソーシャル”性にある。月0.99ドルの会員になれば、特別コンテンツを含めたMatterの全コンテンツを読める。また会員は編集委員会に招待され、All Our Ideas というコラボレーション・プラットフォームを通じて意見を出したりアイデアを交換したりできる。Kickstarter で25ドル以上を出資した人もこの待遇を受ける。

Matterの最初の記事は、アニル・アナンサスワミ氏の“Do No Harm”で、Body Integrity Idendity Disorder(身体完全同一性障害)という、自分の身体の一部を切断したいという強迫観念に襲われる奇病の患者と医師についてのレポート。著者はロンドンのNew Scientist誌のコンサルタントで科学ジャーナリスト。“The Edge of Physics” (Mariner Books, 2011)という著書がある。

科学・技術ジャーナリズムは難しい分野だ。科学の基礎と専門分野の理解、それに分かりやすく伝えるコミュニケーション能力が必要だが、そうした人は稀。日本では寺田寅彦以来、出ていないとも言える。テクノロジーの話になると、スポンサーがついた提灯記事が多くなる。新聞や雑誌でも広告を通じて取材対象とのなれ合いが生ずる。ITなどに典型で、多くの記事がプレスリリースの丸写しだ(それならまだいいほう)。これは一種のコピーライティングなので、独自の視点と調査、取材対象からの独立が要求されるジャーナリズムとは無関係だ。困ったことに現代の問題は多少とも科学や技術に関係の無い話はほとんどないから、社会が必要とする専門家がいないことになる。

記事をE-Bookにするというスタイルは、欧米の多くのジャーナリストの期待を集めている。新聞や雑誌出版社も注目しており、商業的に成功したものもある。1~2ドルを基準にして考えると、5,000人ほどの購読者がいれば取材費と生活費がカバーでき、10万人ならビジネスになるというところだろうか。ジョンソン氏が構想するのは、もちろん10万人単位で回していける仕組みだろう。(鎌田、11/15/2012)

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