バウカー社のデータでは、米国出版市場のデジタル比率は今年第2四半期に22%となった。前期比で1%ポイントしか上昇していないが、昨年同期の14%からみれば8ポイントの上昇。“アマゾン比率”は27%で、二位のB&Nに11ポイントの差をつけている(点数ベース)。B&Nはシェアを2ポイント落としているが独立系書店は6%を維持した。本誌は、E-Bookの拡大とともに、マスマーケット・ペーパーバックが顕著に減少していることに注目する。これは日本で起きることの前兆である。[全文=♥会員]
返本なしのペーパーバック市場の崩壊は何を意味するか
フォーマット別のシェア(左図)では、E-Bookがシェアを拡大する基調が続いている。E-Bookは年末年始のハイシーズンに売上を伸ばし、他の四半期はそのベースを維持するという傾向がある。Q1とQ2に変化が少ないのはいつものことで、Q4-Q1にまたシェアを高めることは間違いない。2012年は30%の大台をクリアするものと思われる。オーディオブックと合わせて3分の1近くがデジタル系ということだ。ハードカバー、ペーパーバックは部数的に減らしてはいないので、デジタルを成長市場で収益源としつつ全体として成長するという形が続く。
チャネル別のシェア(下図)での注目は「独立系E-Book専用書店」が1%から6%にシェアを広げたことだろう。「独立系E-Book専用書店」には、iBookstoreとGoogle Playが含まれているので、小規模なものばかりではないが、もともと本をオンライン販売していたアマゾンとB&N以外の「デジタル・オンリー」ストアがシェアを急速に拡大させたことに注目しないわけに行かない。タブレット市場が拡大し、専用リーダ以外でのユーザーが拡大したことと、2社以外がそれにつれてマーケティング能力を拡大させた結果と思われる。
雑誌型流通チャネルと非在庫型フォーマットの崩壊
こうしたデータから、たんにデジタルの伸びと紙の衰退しか読み取れないだろうか。筆者が注目したいのは、ハードカバーとペーパーバックが(シェアはともかく)ともに現状維持しているのに対し、返本なしの雑誌的流通形態をとるマスマーケット・ペーパーバック(MMP)が12%にまでシェアを落としていることだ。今年中に10%を切って主要なフォーマットの座から転落することは確実だろう。伝統的な卸売り制のハードカバーやペーパーバックが比較的堅実なのに対して、返本なしの廃棄を前提としたMM本は、カテゴリーとして消滅に向かっている。書店が仕入れ(値下げしても売り切)る紙の本と違って、限られたスペースに短期間置いて売れ残りは廃棄するという形態が、絶版も品切れもないE-Bookの登場によって消費者に嫌われ、出版社にとっても利益をもたらさなくなっているのである。MMPはかつて出版市場の大衆化をリードした主力商品で、大手出版社による業界再編の引き金を引いたものでもあった。
これは日本の出版界にとっても重要な意味を持つ。日本の流通は返本制をとるのだが、返本の多くは廃棄される運命にあるので、結果的に米国のMM本と性格的に似ているからだ。取次が果たす金融機能とその前提となる再販制のために、値下げも在庫もできずに廃棄に回ることになる。
デジタルと紙の対立と考えられているものは、じつはフォーマットではなく流通(の問題である。流通問題を放置したために起きている出版の危機を、紙とデジタルと見てしまうのは錯覚である。◆ (鎌田、11/08/2012)