アマゾンKindle Serialsは「次の大発明」か (♥)

アマゾン出版は、「連載」式の出版形式 Kindle Serial の新刊として、故カート・ヴォネガット(1922-2007)の未発表遺作7篇の刊行を始めた。"Sucker’s Portfolio: A Collection of Previously Unpublished Writing"と題されたこの短編集は6つのエピソードと1つのノンフィクションから成り、案内メールとともに毎週1篇がKindleに「自動配本」される。価格は2.99ドル。最終話は年明けの1月2日。購読方式の電子連載は、 アマゾンが最も期待するブック・マーケティングの手法だ。[全文=会員]

古典的な「続き物」マーケティングの復活

第5世代のKindle新機種の影で、9月の発表では出版業界の限られた人にしか注目されなかったが、このシリアルはかなり重要な位置づけを持って登場した。言うまでもなく「連載」は最も古典的なマーケティング手法の一つでで、江戸の草双紙から新聞小説に至るまで、数々の名作、話題作を世に出し、出版業界を潤してきた。とくに近代以降の「連載」は、新聞や雑誌という(四角四面な求心性を持つ本と比べて)オープンな空間に、ソーシャルなコミュニケーションの一部となるよう提供されたエピソードの連なりで、読者が本を購入することが期待されていた。新聞と書籍とはともに出版という近代社会システムの一部であり、どちらも同じ歩調で没落してきたのは偶然ではない。もはや新聞小説の時代ではないのかもしれない。

それはともかく、アマゾンはこの古臭い手法を本気で蘇らせようと考えている。シリアルの魅力はこんなところだろう。

  • ・エピソードが連なり、読みやすく、先が知りたくなる物語ほどソーシャルに共有しやすい
  • ・多くの読者がほぼ同じスピードで読み進むスタイルはKindleの「電子配本」で実現できる
  • ・ショート形式のKindle Singlesの成功に続き、これをシリアル化することで購読者を確保する
  • ・一度払えば最後まで読み続けられ、予約分割払いも可能であるなど柔軟な決済が可能
  • ・読者を一定期間、比較的安いコストでKindleに繋ぎ止めておくことができる
  • ・ものによっては100万人単位の読者を得られる

ベゾスCEOはロサンゼルスの発表で、「次の発明は、過去に着想を得たもの」と語ったのだが、シリアルE-Bookという発想そのものは、すでにいくつかの出版社によって試行されているが、それほど成功した例はない。アマゾンのシリアルは、そうした実験を注意深く観察した結果で。(1) 支払いは1回、(2) 自動配本、(3) ソーシャル、というのが骨格になっている(アマゾンは “Seamless and hassle-free”と称している)。新聞小説のように、アマゾンのシリアルは向こうからやってきて読者の前に現れる。アマゾンは作品のためのメッセージボードを提供して読者の間のコミュニケーションを促す。

アマゾンはまずディケンズの『オリバー・ツイスト』と『ピックウィック・ペーパーズ』の2点をオリジナルの連作形式で発行し(もちろん無料)、続いて8点のKindle独占タイトルを(お試し価格の)$1.99ドルで出している。シリアルで一世を風靡したディケンズの“大いなる遺産”を拝借したところがアマゾンらしい。ヴォネガット本はこれらより1ドル高いが、それでも3ドル。E-Book初心者にとっては買いやすい値段だ。デジタル読者についての最近の調査では、使われていない読書端末がかなりの割合で存在することが判明している。米国では1,000万台の単位で普及しているから、こうした不活性ユーザーに読書習慣をつけさせることも重要な意味を持つ。おそらくアマゾンのシリアルは不活性層の掘り起こしという意味もあると思われる。 (鎌田、11/22/2012)

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