固定価格カルテルの崩壊と浮遊する市場価格 (♥)

サイモン&シュスター社(S&S)は12月10日、ハーパーコリンズ(HC)、アシェット・ブック・グループ(HBG)に続き、E-Bookエージェントとの契約を改定したと発表した。内容は明らかにされないが、書店側での割引販売が可能となっている。固定価格をめぐる司法省との裁判闘争の敗北(和解)を受け入れた結果の対応で、メディアは価格動向に注目している。なお、マクミランとペンギンの2社はアップルとともに和解を拒否して係争を継続している。[全文=会員]

S&S社は、これにより「書店と協力して著者たちのために読者層を拡げ、E-Book市場を成長させることを期待している」とコメントしている。12月10日時点の同社の人気タイトルの価格は、Vince FlynnのThe Last Man ($11.99)、Stephen ChboskyのThe Perks of Being a Wallflower ($6.99)、Doris Kearns GoodwinのTeam of Rivals ($9.99)の3冊はアマゾンとB&Nで同一価格。しかし、Eben AlexanderのProof of Heavenは、10日時点でAが$7.99、Bが$8.43とあったものが、12日には同じになっている。B&Nの対応も早いようだ(上記は米国内価格)。HBGは今月5日に改定し、これにより$19.99という高価格で売られていたJ.K.ローリングのThe Casual Vacancyは$12.74となった。翻訳版は講談社から印刷本で出ているが、2冊で3,000円を超す。

価格を通じた市場との対話:ハーパーコリンズ社の事例から

3社の中で最も早く(9月11日)固定価格から離脱していたHCの数タイトルの価格と売上ランクの変化をB&NのNookプラットフォームで追跡していたDigital Book Worldのジェレミー・グリーンフィールド編集長の観察 (dbw, 12/12) によれば、価格の低下は必ずしも(それに反比例した形では)ランキングの上昇に結びついておらず、実質的に減収となっていると推定している(ランキングは販売数量を表すことに自信を持っているようだ)。価格を$10から$8に値下げした場合、数量は25%増えないと売上は同額とならない。11月12日の記事では、5点を標本として検討しているが、価格低下がランクアップにつながらなかった3例と逆の2例が掲載されている。前者はベストセラーであり価格の低下はわずかにランキングを押し上げたものの反応は弱い(1ドル以下なので当然か)。少なくともランキング水準は高位に維持されている。逆に100~500位台の2点は20%あまりの値下げによってランクは大きく上がっている。

The Ugly Duchess Eloisa James (HarperCollins, on sale 8/28/12)

B&Nの値下げはアマゾンの値下げに追随して行われた可能性が高い。下げなければ売上げは大きく落ちていた可能性もある。アマゾンは値下げに見合う売上げを得たかもしれず、B&Nは少なくとも損失をさけることは出来ていた可能性は強い。オンライン書店にとっての価格は、証券会社にとっての株価のようなものなので、24時間チェックが欠かせない。人手では難しいので、これもスパイダーで価格をチェックして、一定のルールに従って自動的に更新していくことになる。一種のプログラム・トレーディングのようなものだ。

一般的な販売パターンでは、ランクは発売直後から徐々に下がって(グラフでは上がって)いく。この傾向を一時的にせよ逆転させるのはかなり難しいことなので、ランクの上位にある期間を少しでも長続きさせることに、価格管理者は神経を集中することになるだろう。米国の場合、すべての書店(および消費者)が店頭販売で小売価格の変化を経験しているので、カルチャー・ショックはない。しかし、日本の場合は「再販制」という「定価販売制度」が実際にあると思い込んでいるくらいだから、ショックは大きいだろう(現実にあるのは「独禁法」大原則の例外規定であって、それも廃止の方向が示されている)。しかし市場経済に適応するのはそう難しくはないし、無意味ではない。消費者/読者とのコミュニケーションのチャネルの一つだからだ。

Divergent by Veronica Roth (HarperCollins, on sale 5/3/11)

なお、誤解なきようにお断わりしておくが、小売側での割引販売は、版元や著者の収入を犠牲にして行われるものではなく、もっぱら小売側のリスクによって行われるものだ。小売価格が安かろうが高かろうが、多くを売ってくれる書店は、そうでない書店より権利者に多くの実収をもたらす。しかし、小売市場で特定企業の寡占が大きくなると、卸価格の交渉で権利者は弱い立場に立たされることになる。ビジネスのルールが変わったということだ。 (12/13/2012)

Scroll Up