マクミランの少年少女向け子会社であるMacmillan Children’s Publishing Group (MCPG)は、読者参加のクラウド・ソース型モデルを導入した恋愛小説ブランド Swoon Reads を立ち上げたと発表した。2013年春からWebサイトで投稿受付を開始し、公開された応募作は、一般からの評価を得て出版の可否が決定される。MCPGは、2014年から、系列のFeiwel and Friendsを通じて年間6~12点の刊行を目指している。同種のサービスが増える中で、大手出版社も「作家」を確保する手段を本気で模索していることを示すものだ。
作者支援か読者コミュニティ形成か
Swoon Readsとは「ワクワク読み物」という程度の意味だが、マクミラン社はこれが「未知の作者と熱心なロマンス読者が協力して読みたい本をつくる機会」であるとし「これはたんなるブランドではなくコミュニティであり、メンバーは、原稿の発見から編集ノートの提供、カバーデザイン、マーケティングまでの出版プロセスのすべてに参加することになる」と述べている。
アマゾンのKDPがデビュー前の作家に利用されて成功者が生まれたことで、大手出版グループでは自主出版支援への取組みを本格化させている。専門ブランドを立ち上げるのが最も簡単な方法だが、分野横断的なものとするか、ロマンスやミステリといった特定ジャンルに絞るかという選択があり、技術的なソリューションも必要となることから、それも自前で持つかどうかという問題がある。Book Countryというブランドを立上げた後に、100億円あまりを投じて専門サービス企業のAuthor Solutionsを買収したペンギンのような例もある。新人に冷たかった過去があるので「大出版社」というブランド力は作家には通用せず、あまり簡単ではないのだ。
これまで米国の大手出版社は、著者エージェントから回送されてくる原稿だけを読み、大半をふるい落して、見込みのありそうなものを契約し、さらに編集の手間をかけて翌年以降の刊行スケジュールに乗せるといった、かなり悠長な仕事をしてきた。大物作家たちの指定席があるので、もともと新人が入る余地はほとんどない。それも当然と考えてきた出版社にとって、ミリオンセラーが自主出版作家から生まれる状況はカルチャー・ショックだ。最初は「オーディション」のような「上から目線」で専門ブランドを立上げたのだが、これは作家志望者たちから相手にされなかった。手っ取り早く出版し、一人でも多くの読者から反響(とお金)をもらいたいという気持ちに響かなかったからだ。作家が相手にしないものは読者も相手にしない。ペンギンは有力な自主出版支援ビジネスを買収することで、ペンギンとの間にパイプを通すことを考えた。
他方でジャンル・フィクションに特化し、読者コミュニティを有するハーレクインは、読者志向のアプローチをしている。読者の中から明日の作家を見つけようとするもので、これは堅実なアプローチと言える。マクミランのSwoon Reads は、読者志向を採用し、さらにコミュニティを機能させるためにクラウド・ソーシングを導入し、ジャンルを限定した。一種の同人誌や日本の大学系文芸誌のようなプラットフォームの変形だが、コミュニティは一定規模を超えるとコミュニケーションが薄まるので適正規模は難しい。やはりこういう仕掛けは担当者の創造性と根気にかかってくるというしかない。◆(12/26/2012)