アップル iBookstore 日本開設を歓迎する

日経新聞は1月1日、アップルが月内にもiBookstoreを日本で開設すると報じた。すでに報じられていたことで、またiPad登場以来3年近くも待たされてのことでもあり、ニュースとも言えないが、今年の目玉の一つにはなるだろう。昨年のKobo、アマゾンに続いてアップルが登場したことで、真のグローバル化の環境は整った。これはたんなるアップルのストアではなく、世界第2のコンテンツストアの開店で、アマゾンKindleとはまた別の意味がある。

タイミングもよく市場への実質的影響は大きい

iBookstoreが日本で開設することの意味・影響を、とりあえず以下のように整理しておきたい。

  • 出版社(者)がプラットフォームを選択できるので、販売競争が促進される。
  • アプリと異なり、iBookAuthorというオーサリング環境もあるので日本語出版がしやすくなる。
  • EPUB3の普及が早まり、旧来の日本語専用フォーマットからの移行が促進される。
  • 著者・編集者による企画出版がブーム化し、出版社、プラットフォームの間で争奪も起きる。
  • E-Bookにおいて海外出版社の日本発売、国内出版社の海外販売の環境が平等になる。
  • マーケット(読者)とのコンタクトを持ち、活用するものが優位を占めるようになる。

Koboが当分アマゾンのライバルではなく、国産プラットフォームも、それが本業のパピレス以外はあまりやる気が感じられない現状では、アップルの参入はかなり大きな意味を持つ。世界的に見てアップルへの親近感が最も強いのが日本市場だからだ。iOSという制約はあるが、それが制約にならないほどシェアは大きいので、本気で売る体制さえつくれば、唯一のKindle対抗となる可能性は十分にある。懸念材料と言えば、iBookstoreのUIが、そもそも本屋のUIになっていないことだ。アマゾンが消費者の「買い物体験」にフォーカスし、商品の並べ方、勧め方に全神経を集中しているのに対して、ガジェット本体のデザインに恃むアップルは、いまだに出版者を「サードパーティ」とみるコンピュータ屋発想から抜けていない。

「電書元年」の幻は消え、ワールドシリーズがスタートする

しかし、アップル自体がアマゾン対抗になろうがなるまいが、海外から見た日本が東アジアの孤島ではなく、日本から見た世界も地続きの世界となったという実感は、より決定的になる。もともと「世界」に壁などは存在せず、「黒船」もただの乗り物であることを実感できるからだ。言語・文化の壁を超えるのは、必ずしも「翻訳エージェンシー」や「出版社」「取次」「書店」という制度的存在ではなく、意欲と知識・技能・経験を持った個人のチームで足りることはいずれ知れてくる。制度が出版人を守るものでも、まして出版そのものを守るものでもない事実が、より多くの人の間で共有されるようになる。E-Bookでは制度の枠組が無意味となる。

この3年間でわれわれは、「黒船・開国」論に始まり「足並み揃えて」や「日本語フォーマット」や「電子化事業」の阿呆らしさを十分に知った。明治維新以来の知的不毛を総ざらいするような状況は、すべて「思考停止」からきている。思考は、まず読むこと(read)から始まり、人の話を聞き(listen)、議論(discuss)、観察・考察する(observe)という4つの階梯を経たのちに可能となるということを強調したのは、IBMの創業者、トーマス・ワトソン・シニアだった。まことに、読むことは考えるための第一歩であり、読まないことは思考停止の第一歩であった。彼はこう言っている。

「世界中のすべての問題は、もし人間が考えることを厭わなければ簡単に解決できる。問題は、人間はどんな手を尽くしても頭を使わないで済ませたがることだ。考えるというのはそれほど難しい。

これはまさに2009年以来の状況を想起させる。しかしいま新しい出版の環境が生まれている。これは新しいグローバルな思考の環境でもある。考える力は、考えない努力をいずれ上回るだろう。そのほうが楽しいからだ。  (鎌田、01/03/2013)

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