2013年トレンド予想:デジタル出版時代開幕 (♥)

2013年のトレンドについて、世界の識者の見方を紹介するシリーズ。今回はフランクフルト・ブックフェアがニューヨークで発行するPublishingPerspectives (1/10)に掲載された、テクノロジー・サイドからの見方を取り上げた。英国を本拠に出版ITサービスを展開するパブリッシング・テクノロジー社のジョージ・ロシアスCEOは、2012年に出版界のデジタルへの姿勢が一変したことに注目し、それによって変化が加速すると考えている。[全文=会員]

「2012年は商業出版の新しい時代の開始の年として回顧されることになるだろう」と言うのは、世界的な出版ITサービス企業、パブリッシング・テクノロジー社のジョージ・ロシアスCEOである。この年を期に「出版界はデジタルに移行する消費市場に対処するのではなく、むしろデジタルを中心的な商品として当たり前のように提供するようになった。とくに、紙の市場にほとんど影響することなく、はるかに巨大な潜在力を持ったデジタル出版市場が成立したことを出版界に実感させたことが大きい。これによって、躊躇なく前進するようになった。ランダムハウスとペンギンの合併はそうした新時代の幕開けを告げるものだった。彼が新時代のトレンドとして要約するのは次の5点である。

1. 蓄積の手段としての企業再編

昨年10月に発表されたランダム=ペンギンの合併を、ロシアス氏は出版界を一変させる一連の再編の始まりとして見る。アマゾン、アップル、Googleの3社と協力してやっていく以外の選択肢は、大手出版社ほど少ない。それぞれ出版のサプライチェーンに深く根を下ろしているが、問題はこれらが業界に指図するということだ。黙って言うことを聞くか、それとも別の商売の方法を考えなくてはならない。どちらも簡単ではない。その点では小規模な出版社ほど有利な立場にいるように思われる。合併はライバルに脅かされないよう市場での立場を強固にし、投資のための資金を確保するためのものだ。おそらく世界的な大出版社の数は半分になる。

こうした巨大出版社は、新しい、グローバルな知的所有権管理ソリューションを必要としている。それは出版社ごとに孤立・分散した無数の出版ブランドが権利を持つという従来の形とは一線を画すものだ。もちろん、規模の拡大は出版社を身軽にする。そこで生まれるスモールビジネスの動きを注視していく必要があるだろう。以上が、企業再編に関するロシアス氏の見立てだ。

前半は誰もが口を揃えることだが、「グローバルな知的所有権管理ソリューション」は間違いなく彼の会社がコミットしていることだろう。出版社が企業規模を拡大しても、それだけでパフォーマンスが高まるわけではない。先端的なデジタルインフラは不可欠なもので、それにはカネがかかるが、直接的なリターンは約束されない。それにアマゾンは一歩も二歩も先行している。だから投資は知財(IPR)に集中する。集中したものは管理・運用しなければならない。それにもカネがかかる。しかしこれは権利なので、ITシステムのように償却の速いものではない。そこで知財市場に資金が集まる。それは金融の世界を動員した、バブル的なものとなる可能性が高い。日本の業界が「著作隣接権」などというガラパゴスIPを法制化している間に、世界市場は動き出している。IPのグローバル化に背を向ける日本政府はかなり難しい説明を求められるだろう。

2. 今年もアマゾンが業界をリードする

アマゾンの強さと大きさは、出版産業の骨格から構造までを不可逆的に作り替えられるほどのものだ。その上消費者とコンテンツとの関わり方まで導いている。その事業が完全にエンドユーザーの要求に対応したものであり、出版社と書店が消費者の支持を求めて互いに競い合っている限り、アマゾンはE-Bookと自主出版の市場で独占的な地位を維持するだろう。消費者はアマゾンが提供する使いやすさと親しみやすさを評価しており、これは2013年中は確実に続くので、消費者に目を向けさせるための努力が必要になる。アマゾンによる自主出版が著者にとっての出版ルートとして定着すれば、出版者として既存の出版社に脅威を与える存在になるだろう。

出版社にとっては愉快ではないかもしれないが、アマゾンの優位は、アマゾン自身が消費者に対する態度を変えない限り(嫌われない限り)続く、というのがロシアス氏の結論。インターネット時代のデジタル出版のフレームワークは、アマゾンが設計し、構築した。それは5年でその力と将来性を実証し、消費者、出版社、著者というステークホルダーにとって外せない存在となった。ベゾス氏がインターネットで紙の本を売る商売を始めた時には、いまさら何で本などをと呆れられたものだが、本の潜在力を不気味なまでに正確に見通していたビジョンと、寸分の狂いもなくテクノロジーとビジネスを同期させる卓越した能力を否定する人はいないだろう。(→次ページに続く)

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