2013年のメガトレンドを予測する(上)

E-Book(電子書籍ではない)の登場から丸5年たち、風景は一変した。出版の技術基盤がインターネット上に移行したことで、著者と読者、出版社と流通の関係が、合理的なバランスをもとめて流動化を始めたのだが、市場主義の米英では急速に、秩序の安定を重視する国々でも徐々に動き始めた。この文明史的な変化はまだ序の口で、6年目の今年はようやく本当のテーマが見えてくるはずだ。これからの5年は息継ぎが大変だ。

Digital Book World (DBW)は12月20日に「2013年のE-Book/デジタル出版に関する10の大胆予測」を掲載した。F+W Mediaが主宰するDBWは毎年1月にニューヨークで開催するカンファレンスの通年版として発展してきたサイトで、技術・市場・ビジネスをバランスよくカバーしていることで評価が高い。この予測も、エキスパートからの取材でまとめたものだ。以下DBWの予測を簡単に紹介し、コメントしていきたい。

1. デジタルの成熟でさらなる合併が進む

ランダムハウスとペンギンの合併が認められれば世界最大の出版グループが誕生する。今年もさらに、とくに中堅出版社の吸収合併が続く。これまでハーパーコリンズが名門トーマスネルソンを買収して新しいクリスチャン出版事業部門に統合、業務アウトソーシングのiEnergizerはE-Book制作会社Aptaraを買収した。この2年間に起きたことは始まりに過ぎない。かつて音楽産業でも6大グループがあったが、現在では3.5になった。

DBWのグリーンフィールド編集長は昨年3月の記事で、デジタル出版の再編を正確に、(1)デジタルワークフローの支配、(2) STM (科学技術・医療)分野での買収(3)言語と国境を超えた統合(4)総合デジタル出版の強化(5)投資資金の流入(6)技術と人材の入手の積極化、の6点に分けて動向を伝えた。重要なことは、これがやや自閉的な娯楽メディア業界のような、縮小均衡下の吸収ではなく、急成長を前提としたシフトであることだ。投資資金が流入し、技術と人材への投資が行われ、言語・国境を超えた展開が進んでいるのは、出版がこれまでの「書籍」の桎梏から開放されることでデジタル=メディア出版の中心的存在に飛躍することを予想した上での動きだということだ。これまでコミュニケーションにおける投資は、インフラであるテレコムやモバイルデバイスを中心に行われてきたが、これらが飽和点に近づいて成長が鈍化するのに対して、知識コミュニケーションの開発には制約がない。伝統産業である出版はその中心にある。グーテンベルク以来の慶事であろう。

2. 2013年は拡張E-Bookの年

日本の「元年」のように、これまで何度も言われ続け、空振りしてきた拡張E-Bookが、今年後半から、主として実用書やノンフィクション分野で本格的に登場する。すでに多くの有力出版社がタイトルを開発中で、一気にコンテンツが揃う。市場のニーズは高まっており、タブレットの普及で環境は整った。確かに今年こそは本物だろう。

拡張E-Bookは、対話機能、知識ベースを組込んだマルチメディア・ドキュメントを意味する。一般消費者にはなじみは薄いが、技術的には20年前に完成していたものだ。それが普及しなかったのは、制作コストと通信容量、デバイスの価格水準が、一般消費者の手が出るタイトルの供給を困難にしてきたからだ。物理的制約はない。あとは出版社のマインドとデジタル能力(制作/データ管理等)の問題だ。出版社側のコスト問題を解決するには企画制作開発のシームレスな体制が不可欠で、構築には時間がかかる。欧米の大手出版社、とくに教育系、学術系は過去3年以上にわたって試行錯誤を重ね、量産体制を完成させた。日本はその点で周回遅れだ。拡張E-Bookの多国語化は制作よりはるかに容易なので、海外出版社のタイトルは必ず日本語化される。では誰がやるのか。デジタルファーストなコンテンツの日本語化において日本の出版社の立場は微妙であるとだけ言っておこう。

3. 無料Kindle

Kindleコンテンツではなく、デバイスが無料になるという話は、コストの低下が著しい2011年中から出ていた。DBWによれば、まずアマゾンにとってE-Inkリーダの長期的収益性はすでに実証済みで、ユーザーは最も貴重な存在だ。アマゾン以外にとっての価値が低くなれば、需要が減退するので、アマゾンはそのサプライチェーンを維持する必要がある。そのために、製品の二極化を図り、Paperwhiteのハイエンドはそれなりの価格で、Touchのようなベーシックモデルは景品にしてでも配布して生産量を維持する、というのがフォレスター社のアナリスト、マッキヴェイ氏の予測だ。これはアマゾンの事情だが、他にもドイツのTxtrが13ドルのリーダを出すなど、デバイスを無償にしたビジネスモデルを狙う動きは、まだいくらも考えられる。本誌はまだアマゾンがE-Inkリーダのサプライチェーンの面倒を見なければならない状況にはならないと考えている。(次ページに続く)

Pages: 1 2

Scroll Up