2013年のメガトレンドを予測する(下)

前号に続き、10大トレンドの後半をお届けする。なんといってもマーケティングの問題が大きいが、デジタル・ファースト時代の出版マーケティング手法の確立にどのくらい時間がかかるかは読めない。プライバシー侵害問題は静かに潜航している状態。児童書市場の爆発的成長はよいニュースだが、教育出版の世界では中堅企業の淘汰も起きている。そしてどうやらB&Nも危険水域入り。急成長の陰でデジタル化による犠牲者も多くなりそうだ。

6. 根本的に見直されるマーケティング

DBWは、個々のタイトルと発行日だけにフォーカスしていたこれまでの総合出版社の一般書のマーケティング慣行は通用しなくなり、根本的に見直される、という出版コンサルタントのマイク・シャツキン氏のコメントを紹介している。(1)刊行前にパブリシティと広告を集中的に行い、(2)刊行後一定期間はそれを継続し、(3)あとは売れなくなって店頭から消えるまで書店任せ、(4)既刊本リストに入ったら重視されない、(5)映画化や受賞でもあれば再度、というのが米国の一般的なやり方だった。日本と違って書店に販売する卸販売なので、発行直前が最重視されるが、それ以外は日本とそう違わないフェードアウト型。

E-Bookによって物理的な絶版がなくなったので、既刊本の再活性化が容易になり、販売可能期間も制約がなくなった。出版社は制約がない状態に戸惑いつつ、懸命に新しいプラクティスを確立しようとしている。シャツキン氏によれば、理論ではなく成功が変化を導く。どこかの出版社の既刊本から突然ベストセラー・ランク入りするものがあれば、その理由が何かを突き止めることで模倣が進むという。デジタル・ファーストのオープンロード社 (Open Road)などは、最初からそれを意識した方法論を持っているようだ。

「本と発行日」という確かなものフォーカスしていたスケジュール・ベースの慣行は抜け出すのが難しい。広告は直前までお預け、最初の2週間で売れなかったらそれで終わり、という日本の書籍出版は、マーケティングに関しては米国よりはるかに厳しく、広告コストも高いので最初から放棄している出版社もめずらしくない。厳しい制約の中で地道に取り組んでおられる方の努力も評価されることが少ない。日本で既刊本市場のバロメーターとなるのは古本だろう。アマゾンはその情報を得るために古書を扱っている。日本で本のマーケティングを再確立するには、米国のBookScanのようなインフラを共有する必要がある。そうでないと、シェア20%に近いアマゾンだけが圧倒的な情報力を使える状況が続く。

7. E-Bookと読者情報についてプライバシー侵害問題が起こる

図書館の利用記録はプライバシーの一部だが、犯罪捜査などの特殊なケースを除いて、これまでは誰も関心を持たず、もちろん商業的に利用する方法もなかった。しかし、オンラインストアでE-Bookを購入あるいは借出して読むということは、自動的に読書履歴をプラットフォームに預けることを意味する。そこで集まる情報は、図書館の履歴とは比較にならないほど詳細だ。GoogleやFacebookのように、プライバシーを商業化する巨大企業も存在する。しかし利用者はそれを意識していない。図書館情報誌infoDOCKETのゲリー・プライス編集長は、今後大きな問題を引き起こす、と指摘している。プライバシーは人生に大きな影響を与えるまで、人々に意識されることはないが、それだけに表面化した時には抜き差しならない状況になっていることが少なくない。何が起きるかを知るには、どんな情報が誰によって蓄積・利用されているかを知る必要があるだろう。本誌も注目していきたい。

8. 2013年末までに、米国の児童の65%がデジタル読書デバイスへのアクセスを持つ

デジタル読書の子供への普及は昨年から本格化し、ホリデーシーズンには、2歳から13歳までの子供を持つ大人の40%がデバイスの購入プランを持っているという調査 (PlayScience による)も出された。デジタルコンテンツ向けの予算も平均$28.36という。市場としても相当な規模だし、将来の読書人口と読書習慣を形成する世代だけに、様々な意味で大きな意味を持つ。日本から見て65%というのは驚異的な数字だが、話半分としてもデジタル出版市場の形成が加速化することは確かだ。

9. 教育出版社の淘汰が進む:センゲージが債務不履行でマグロウヒルに吸収へ

教育出版の世界でもデジタル化による淘汰が起きているが、有力出版社であったセンゲージ (Cengage Publishing) が間もなくマグロウヒルに吸収されるようだ。電子教科書時代は目前に迫っていると考えられているが、コンテンツとサービスを一貫したソリューションとして提供できる体力を持つ出版社は、マグロウヒルとピアソンなど一部に限られる。ホートン・ミフリン・ハーコートも危険水域を漂っているが、中堅出版社のサバイバルは厳しくなっている。

10. B&Nの株価が10ドル以下に落ち込む

B&Nの株は昨年を通じて乱高下し、マイクロソフトが6億ドルを投じてNook Mediaに参加すると発表した時には一夜にして株価は2倍に跳ね上がった($27.11)。その後9月には11ドル台を徘徊し、最近は$14~16に持ち直しているものの、危険水域に近く、ファンドも手を出しやすい。B&Nに関しては別の記事でコメントしているので、そちらを参照していただきたいが、拡大し、グローバル化する市場についていけなかったので失速した状態。パートナーであるマイクロソフトやピアソンからの再度のテコ入れを待つか、それともよい買い手を待つかのどちらかしか選択肢がなくなりそうだ。 (鎌田、01/10/2013)

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