E-Book第2ラウンドの覇権を狙う Inkling (♥)

iOS出版テクノロジー/サービス企業として出発したベンチャー企業 Inklingは2月12日、クラウド出版プラットフォームHabitatを一般の利用に無償開放すると同時に、主に出版社を対象とした企業向け製品を立上げたことをpaidContentが報じた。アップル独自のエコシステムにこだわって立ち上がりの遅いiBooks Authorに比べ、柔軟なビジネスモデルを持つこの会社が狙うのは、アマゾンの本格進出に先駆けて、拡張E-Book(動的コンテンツ)でシェアを確保することだ。その可能性は低くはない。[全文=会員]

2つの巨人の間で巧みに出版社の支持を獲得

アップル出身の優秀なデザイン・エンジニアがサンフランシスコに設立したInklingは、これまで3,000万ドルを投じてHabitatを開発し、昨年秋に出版社に対するサービスを開始した。出版社としては、高等教育系以外に実用書出版に乗り出し、高度な対話型プラットフォームの機能を生かした約400点の動的コンテンツを提供している。1月には、コンテンツに索引付けし、Googleでの本の探索を容易にするサービスの提供を開始した。新たに提携した出版社も発表されたが、HarperCollins、DK、Lonely Planet、Rick Steves Kaplan、Time Inc.の5社。

iOSをベースとするInklingは、アマゾンとアップルの両巨人とアドビを相手にしている。前者はテキスト系コンテンツで圧倒的なシェアを持ち、Kindle Fireとアプリ・ストアで、徐々に拡張E-Book(対話型コンテンツ)に進んでいる。後者はオーサリング・ツールとして最高水準にあるiBooks Author (iBA)をマック・ユーザーに無償提供し、iBookstoreのエコシステムのインフラを提供している。iBAを「失敗」と断じるマット・マッキニスCEO(=写真左)が意識するのは前者のほうで、図版が重要な役割を果たす教科書、旅行ガイド、料理本、実用書等々のジャンルを制したいと考えている。

HabitatはHDビデオ、対話機能、3D画像を含むコンテンツを、iBookstore(アップル仕様のEPUB3)およびWeb (HTML5)向けに同時出力することが出来る。更新も同時に行うことが出来るのはマルチデバイス・ツールとしては必須の機能と言える。このレベルのオーサリングでマルチデバイス対応なのは、Habitatだけだ。もちろん、クラウド・ベースで複数での作業が可能なので、著者とデザイナー、プログラマーが共同で作っていける。iBAは優れたツールだが、プロが業務用に使うには、作業プロセスが組みやすいクラウド・ベースが有利だ。アウトソーシングが進んでいる欧米では、例えばニューヨークの編集者とインドのデザイナーが共同で制作を進めているケースが少なくない。

ユーザーのニーズに即した柔軟なビジネスモデル

マッキニスCEOによれば、印刷本のファイルをiPadコンテンツとして作り直すには、8ヵ月前にはページあたり30~60ドルもしたが、無償のHabitatによって3ドルに下がったという。今回の発表で、すでにベータ・ユーザーとなっている4社( O’Reilly、Frommer’s、Workman、Wiley)を含め、ユーザーは9社となったが、いずれも実用書で知られる有力出版社だ。また圧倒的な法人ユーザーを擁するアドビに対抗して、自社ブランドでの出版を行う出版社にエンタープライズ・ライセンスとAPIを提供しているが、ピアソン、エルセビア、ウォルターズ・クリューワーが契約した。さらに、Inkling Habitatのアカデミック・モデルは、無償使用に加えてInklingストアでの売上シェアもゼロとしている。ビル・ゲイツ夫妻の財団の支援を受けた20 Million Minds Foundation (20MM)と提携して50点の教科書コンテンツをカリフォルニアのコミュニティ・カレッジに寄贈している。

Inklingは本誌も注目してきたベンチャー企業だが、技術力の高さもさることながら、プロダクトとサービス、EPUB (iPad)とHTML5 (Web)、有償と無償、プライベートとパブリックを使い分ける巧みなマネジメントにもっと注目すべきだろう。ベンチャー企業ながら、ビジネスモデルとエコシステムのイメージを明確に保持しているところがすばらしい。サービス側ではインドのサービス企業と提携して、生産性の高い制作ソリューションを実現している。大手出版社が必要としているものだ。当初は教科書にフォーカスしていたが、立ち上がりが遅いとみて実用書をシリーズとして出版した。柔軟性があるので、雑誌コンテンツ開発や広告インタフェース開発などに展開する可能性もある。

日本との関係では、EPUB3の多言語機能を組み込むことで、日本語にも対応できる。ピアソンやワイリー、エルセビアの書籍の邦訳本などから浸透してくる可能性が強い。 (鎌田、02/14/2014)

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