経団連による出版「著作隣接権」批判の意味

経団連が2月19日に提言した「電子出版権」は、出版社中心で進められてきた「出版者への著作隣接権付与」への動きに一石を投じる(というより壊滅的打撃を与える)ものとなった。経団連は2009年1月の「デジタル化・ネットワーク化時代に対応する複線型著作権法制のあり方」において、産業財産権型と自由利用型の二本建てを内容とする再構築を提案しており、今回の提言はその延長上にある。しかし、出版業界に対するこれほど直接的な批判は前例がない。この筋の通った隣接権批判に出版業界は反論できるだろうか。

契約軽視体質がコンテンツ流通問題の根源

権利(right)に関わる法制度は、法という複合的なシステムの中で最も重要なもので、制度的・社会的整合性、衡平性が最高度に求められる領域だけに、利害関係者の間で徹底的に議論し、問題となることを予めつぶしておく必要がある。経団連の知的財産委員会 著作権部会は、「いわゆるハードメーカー、コンテンツメーカー、放送通信関連等、著作権問題に利害を有する業種から幅広く選任されており、業種間のバランスに配慮した構成となっている」とされているが、出版業界の影響力は大きくない。そして、産業界はこれまで出版界に対してフラストレーションを感じてきた。今回の提言でも、米国市場の急成長にもかかわらず、「わが国の電子書籍ビジネスは本格的な飛躍の段階にない」と述べ、その理由はもっぱら出版界の責任(契約を嫌う前近代的商慣習)にあるとしている。

コンテンツの流通を阻害しているのは主に日本の出版業界の体質である、ということは、これまでは婉曲に言われてきたに過ぎないが、これほどはっきりと「批判」したのは画期的ではないだろうか。その上で、一部出版業界関係者等の主張する「出版者への著作隣接権付与」という案は、第一に守られるべき権利者の意思が最優先されないおそれがあるほか、権利者数の増加による流通阻害効果も予想される等、副作用が大きいと考えられる。」としてこれを厳しく批判する。この提言が「電子出版権の新設」をテーマとしつつ、実質的に「隣接権付与反対」を目的としたものであることがうかがえる。

論点としては別に紹介、検討してみたいが、これで公開の対話が促進されることに期待したい。出版社は1980年代から、著者との契約よりも、隣接権のロビー活動に熱心だった。法制度によって出版社の財産権が公認されれば、著者(著作権)に対する出版社(著作隣接権)の優位が確立し、デジタル時代におけるコンテンツの支配権が自動的に確立するからだ。しかしこれは虫が良すぎる。著作財産権の市場化促進に関心がある経団連企業が許容できないものだ。使いたければ(著者ではなく)出版社にロイヤルティを払えというものだからだ。出版社にもっと悪知恵があったら、まだ力があった時代にデジタルにおける既成事実(つまり出版)をコツコツと積み重ね、著作者への実効支配(つまり契約)をじりじりと強めていたのだろうが、実際にはガラケーと電子辞書を例外として、まともにビジネスにしてこなかったし、メーカーにも協力的ではなかった。経営的には最も重要な著者であるマンガ作家を敵に回してもいる。

想像をたくましくすれば、今回の動きは、TPP参加問題とも関係するだろうし(隣接権はりっぱな非関税障壁となる)、アマゾンやアップル、Googleなどのネット企業が影響力を持つ在日米国商工会議所(これまでにも書籍再販などを批判している)が動いているとも考えられる。問題にならないうちに手を引くのは、出版界にとって自然な判断であるように思われる。 (鎌田、02/26/2013)

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