中古コンテンツ市場の現実性と影響 (♥)

前号のReDigiの記事で述べたように、中古コンテンツ市場の誕生はかなり近いと思われる。すでに影響と対応を考えるべき段階に入っている。出版社の立場はかなり苦しいが、まだ主導権をとれる可能性があり、紙では不可能だった古書市場からの収入を期待することもできる。影響として考慮すべきなのは図書館の電子貸出、そして本の内容(耐久性)、それに「新本」の価格形成との関係だろう。ここでは予備的な検討を行っておくことにする。  [全文=会員]

コンテンツ・ユーザーは無権利状態

アマゾンがE-Bookユーザーの再販売プラットフォームに関して米国特許を取得したことは、新しい市場の誕生に現実味を与えた。そもそも、ReDigiの判決を待つまでもなく、コンテンツの中古販売が法的に可能であることは明確であったし、アマゾンが最初からKindleのエコシステムの中に中古市場を組込むことは可能だった。少なくとも特許申請をした2009年には技術的に完成しており、アマゾンがそうしなかったのは、デジタルリーディングの成熟を待っていたに過ぎないと思われる。その場合の成熟とは、(1)規模(ユーザー×購入ライセンス数)、(2)出版社のデジタル依存度、(3)ユーザーの購入・消費パターンの形成、(4)ユーザーの権利意識、(5)この市場を狙うスタートアップ企業の動き、などだろう、最初の3つは定量的なもので、Kindleエコシステムにおける中古市場立上げの時期を予測していたはずだ。この会社はデータ中心主義を創造的に使うことで有名だ。

周知のように、コンテンツは発行者によってライセンスが供与されるだけで、所有権は移転しないとされている。それにしては「購入」ボタンがあるのはおかしいが、少なくともライセンスは販売される。このライセンスにより、ユーザーはストアが提供する個人領域にコンテンツを溜めておくことができ、デバイスを使ってそれを利用することが出来る。これが普通の状態だ。では、もう必要としなくなったライセンスを転売することは出来るのか。多くの発行者はできないと言い、DRMで鍵をかけている。そのまま市場に出たコンテンツは印刷本と違って複製され、海賊版に転化するという理屈だ。このライセンス販売方式は、IBMがソフトウェアにおいて(それが非常に高価だった時代に)確立し、コンテンツにも引き継がれてきた。

E-Bookの約款は、契約者本人に対し、コンテンツの非商業利用を認め、同時にそれがコンテンツプロバイダーによって(販売ではなく)ライセンスされたものであると明記している。アマゾンはDRMの鍵を預かり、それを巧妙に使ってユーザー(さらにはE-Book市場)を管理してきたと考えられている。

E-Bookユーザーの権利がきわめて小さいことは、E-Bookの価格問題とも絡んで大きな不満の種となってきた。大昔の汎用機のソフトウェアと日用品と化しているコンテンツを同じ方法で規制するのはおかしいと考える人がいるのは当然だろう。同時に、Kindleなどのプラットフォームが確立し、機能している以上、複製を伴わないライセンスの移転という形での再販売は合理性があり、これを禁止し続けることは困難だろう。アマゾンはユーザー間の貸借や貸本サービス(ライセンスの一時的移転)という形で、敷居を少しずつ下げていった。貸本の場合でも販売と同額の版権料が入るので、出版社の心理的抵抗も次第に麻痺してきたころだ。これが市場の成熟と言える。現時点で、アマゾンがKindle再販を始めた場合でも、出版社が法律的に阻止することは困難だ。DRMによる管理は有効に機能し、コンテンツの複製は報告されていない。

あとは条件の詰めと影響予測

問題は、再販売において権利者への補償を提供するかどうか(ライバルとの関係が大きい)、また幾らで販売するかだ。権利者は販売の版権料と同額を主張し、ストアは安い額を提示する。交渉がまとまらないと円満なスタートとはならない。例えば、市場価格を下回らない水準での再販売で、権利者に全額の払い戻しがあるならば、出版社が反対する理由は少ないだろう。ただしこれはビデオなどのストリーミング・タイプのコンテンツには適用できない。

この中古コンテンツの公認は、図書館のE-Book貸出に影響を与えそうだ。出版社はDRMを通じて、図書館への販売条件(貸出し回数等)をコントロールしているが、図書館が購入したコンテンツ(あるいはライセンス)を自由に使用してよいとすれば、図書館の利用を拡大することになる。またアマゾンの貸本サービス (Kindle Owners Lending Library)を無意味にする。昨年10月に生まれたE-Bookユーザーの権利団体Owners’ Rights Initiative (ORI)には図書館関係者が入って活動を活発化させている。話は簡単ではない。ORIについてはまた紹介しようと思う。

日本では古本は(CDやDVDと同様)「古物営業法」のもと、古書店によって売買されている。そして主要書店ではアマゾンだけが印刷古書を販売している。江戸時代の「本屋」は新書、古書の小売、卸、貸本から出版までを事業としていたから、本をストックと考える限り、こちらのほうが自然な形態だ。最古のビジネスモデルと最新のビジネスモデルが同期し始めたということは、合理性の尺度が変わったことを意味する。米国では米国著作権法 (first sale doctrine)で印刷古書の販売が認められてきた。EMIがReDigiを提訴したのは「複製されない保証がない」ことだったが、今年中に予想される中古コンテンツ合法化判決は、そのままKindle中古市場へのゴーサインとなるだろう。

書籍はなまものではないというタテマエで販売されているが、日本ではストックされる財というより、ストリーミング情報のように扱われており、実際にも書店ではそれに対応した内容の本(マンガ、写真集…)が雑誌とともに膨大に流れている。コンテンツ再販は出版される書籍の企画内容に大きな影響を与えるだろう。  (鎌田、02/28/2013)

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