iBookstoreへの期待と疑問

Babylonかねて待望されていたアップルiBookstoreが、iBooks 3.1とともに日本での営業を開始することが3月6日に発表された。角川、講談社、文芸春秋、学研、幻冬舎などが契約し、iBooks Authorで(技術的、コスト的に)開発が容易になった、iPadに最適化したタイトルが揃えられており、これは日本での拡張E-Bookの市場を開くものとなろう。これでこのストアが開設した国は51ヵ国になり、名実ともにグローバルな環境が整ったことになる。(図はバビロンの空中庭園)

「iPad専用」は出版の本義から外れる

Apple_Jアップルのリリースは、「iPadに最適化された豊富なセレクション」を強調しており、「村上龍の小説『空港にて』、『希望の国のエクソダス』、より深く物語の世界に入り込めるようにインタラクティブなメールが各章に盛り込まれた『心はあなたのもとに』といった限定作品」が紹介されている。

iPadというデバイスの特性からして、印刷本電子版の市場が大きく伸びるとは考えにくい。マンガにはよいが、高すぎるし、きらぎらしく機能がありすぎて読書に集中できないし、何よりiPadユーザーは静的なコンテンツと読書人のものではない。しかし、世界的に今年が「元年」とみられている拡張E-Bookには妥当なデバイスで、そのためのストアが開設されたことの意味は大きい。われわれはiBooks Author-iBookstore-iPadというチャネルを利用することで、初めてEPUB3の拡張E-Book開発環境を実感することが出来る(iBAは実質EPUB3)。

ベンダーとしてのアップルが「iPad最適」「iPad専用」を強調することは理解できる。しかし、出版社がデバイスやプラットフォームにコンテンツを閉じ込めることは、公共空間の情報発信としての出版の本義からは外れることであり、「iOS専用」は「Kindle専用」と同じく、実験的あるいは先行的なものと位置づけることを期待したい。iPad用に開発されるタイトルは、EPUB3でAndroid系やWindows系デバイスにも提供されるべきだ(「出版」以外のコンテンツ・ビジネスというのならば問題はない)。

iPadは現在最も進んだリーディング体験を提供する環境だが、その体験がアップルのビジネスの箱庭の中にとどまるならば、それは出版より古典的なゲームの環境に近くなる。アップルのiBooks Authorは、思うに最高のEPUB3制作環境となるべきだったのだが、古典的なOS中心主義が可能性を狭めた。この会社は完全性(integrity)を開放性、柔軟性に優先する。それは出版にとってもアップルにとっても不幸なことだった。デバイスやビジネスは有限を前提としているが、出版は無限を志向している。メーカーから見てコンテンツは自社のプレーヤーで再生するソフト/アプリにすぎないが、その有限な環境に制約されるなら、動的なE-Bookは(アプリではあっても)出版にならず、紙を代替することはできない。 (鎌田、03/07/2013)

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