デジタル・ファースト:新事業か出版の未来か

digital_firstデジタルコンテンツの販売を先行させる出版形態だが、その意味するところは浅くない。「デジタル」をどのようなものと認識するかで対応も異なってくるからだ。これは出版における例外なのか、補完なのか、それとも未来形なのか。2007年以降5年間のデジタル革命の展開をみてくれば、すでに例外ではあり得ない。そして印刷がもはや21世紀の出版需要に応えきれない以上、それは明日と考えるほかないだろう。写真/カメラのように。

Jane Friedman2008年にハーパーコリンズ社のジェーン・フリードマン女史(写真=左)が社長兼CEOの職を辞して“E-riginal”のOpen Road Integrated Mediaを設立した時には、ほとんど酔狂と思われた。この会社は2011年にベンチャー・ファンドから800万ドルを調達し、成長軌道に乗った。ビッグシックスから中堅までの出版社も、それぞれE-Book専門ブランドを立ち上げてデジタル・ファースト路線を踏襲している。

デジタル・ファースト(以下DFと呼ぶ)は、デジタル・オンリーではない。多くはPoD(オンデマンド印刷)をビジネスモデルに組み込んでおり、読者や書店、図書館からの印刷本需要に応えられるようにしている。それもアマゾンなどより流通大手のイングラム社の(少部数)印刷・書店配本サービスを利用した本格的なもので、今日のPoDの品質を考えれば、在庫レスのペーパーバック出版を組込んでいると考えられる。

DFは自主出版やニュービジネスでは必ずしもない。最初は印刷・流通コストを負担できない自主出版者やデジタルに大きな可能性を見出すニュービジネスだけのスタイルだったが、上述したように、大手出版社の巨大で複雑なビジネスモデルにおいて、少なくとも重要な構成部品となっている。それは、デジタル比率が30%を超すまでになり、アマゾンの存在が重みを増し、自主出版出身作家のベストセラーが業績を左右する存在になったことと対応している。大手出版社はアマゾンがDFをリードしており、それが致命的になりかねないことを感じている。

DFは(当然のことながら)アプリや拡張E-Bookなど、デジタル以外ではあり得ない「ボーンデジタル」はもちろん、印刷・物流費用のリスクが不透明な(つまり点数においては大半を占める)出版物にとって唯一の現実的手段である。ということは、印刷商品として成功する保証のないタイトル、ギャンブルに値しないタイトルは、そもそもDF+PoDしかあり得ないのだ。多くの出版関係者はこのことから目を背け、出版を大小のギャンブルの場としてきた。

簡単に言って、DFは例外ではなく常態であり、PoD以外の印刷本が例外的存在になる、と本誌は考えている。簡易ではない立派な装丁、初版の刷部数、販促、広告、在庫など、それなり以上の心血を注ぎ、費用をかける、グーテンベルク出版の王道以外のものはDFとすることが最も合理的だ。そしてデジタルで売れるものは紙でも売れる、ということはすでに証明済みだ。在庫レスで供給は無限という、商品としては完璧に近いE-Bookが印刷本に及ばないもの、それは物体としてのオーラだけだ。

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