気になる情報:3月第1週

これまでは「週刊」というペースで発行してきましたが、情報は毎日入ってくるし、動きが速くなっているので1週間たつと文字通り1周遅れになりかねない気がしてきました。ここでは、Magazine発行以後の1週間(金曜~水曜)に起こった出来事、海外メディアの話題などから、編集長の目に留まった情報をランダムに、メモを兼ねて逐次追加していきます。情報やアイデアを共有していただければ幸い。

気になる情報 (1):ハードランディングの予感

毎月最初の週は、小田光雄氏の[出版状況クロニクル]の月間レポートから目が離せない。
いつもながら情報量が多い。今月は

1. 2013年1月の書店調査(アルメディア、2002~)
2. 返品率の推移(書籍/雑誌、1970~)
3. アマゾンの2012年日本売上高(『週刊ダイヤモンド』「数字で読むアマゾン」(2/16))
4. 電子書籍の状況(『日経MJ』特集「電子書籍ブレークの芽」(2/22))
5. 角川HD会長インタビュー(新文化2/21)
7. アメリカのブックオフ
8. 出版4団体の「軽減税率要望」の動き
9. レンタル市場の不振(『キネマ旬報』(2/下)、木村尚彦「2012年パッケージソフト業界総決算」

などに目が行った。

1.は、書店の月間新規開店ゼロ、閉店97点という興味深いデータを伝え、おそらくここ30年来で初めてと指摘している。80年以降は一種の「出店バブル」が続いて、店舗数は減っても大型店が床面積を補うという状況だったのだが、それも終わったようだ。その影響は返品率に表れるはず。そこで2. となるが、1970年まで溯ってデータをチェックしている。1970年は、書籍が30%、雑誌が19.4%であったものが、出版市場が縮小を始めた1998年に41.0%と29.2%となり、書籍は抑制策が効いて2012年に37.8%と歯止めがかかったが、雑誌はほぼ一貫して上昇し、37.6%である。世界的に見て、これは驚異的に高い。ちなみに世界的には書籍と雑誌は別の業界なのだが、日本の出版は雑誌+マンガが書籍を支えるという形になっている。書籍が(もともと広告を刷っている)雑誌並みに読まれずに廃棄されてきたのも無残だ。

書籍・雑誌ともに40%近い返品率は、どちらも大半が赤字生産で、継続性に重大な疑問が生じていることを意味する。過去15年以上もこれでやってきた、ということは意味をなさない。何事にも終わりはあるのだ。「このまま進めば、書籍と雑誌の双子の赤字という事態を招来することになろう」と小田氏は述べている。書籍と雑誌の「双子の赤字」が書店を圧迫し、さらに出版社を追いつめている。

3. そこでアマゾンの問題。週刊ダイヤモンドは「2012年度書店売上高ランキング」(12/15号)で、2011年のアマゾンジャパンの出版物売上を1,920億円。シェアを23.1%としていた。小田氏は、12年度に2,000億円を超えたと推測し、すでに30%超と述べている。アマゾン売上は書籍中心なので、書籍におけるシェアはさらに多くても不思議ではない。もはやアマゾンなしでは書籍出版は成り立たないところまで来てしまった。「再販制」がアマゾンだけを利しているのは明らかなのに、この自縄自縛はいつまで続くか。「再販制」は呪文であり、それを信じる(ことを義務付けられた)人にだけ恐るべき力を発揮する。

4. 『日経MJ』(2/22)の特集は知らなかった。小田氏によれば、全体として「緊デジ」礼賛の「羊頭狗肉の提灯記事」である由。そうしたものは山のように流されたが、ここらが昨年の予算の使い切りか。ところで同誌では、電子書籍に関して73.5%が「買ったこともないし、今後も買いたいとは思わない」というアンケートの結果を載せている。よほど電書嫌いが多いらしい。これを真に受けるならば、およそ国費を投じてやるべきことではないことになるが、そう言わないのは、信じていないか、あるいはどうでもいいと考えているかのどちらだろう。このユルさ、無気力さもまた自縄自縛の一部なのだろう。そもそも、買ったことはおろか、使ったこともなく、おそらくは見たこともない人を対象に調査しても意味のある「結果」が得られない。先日本誌で紹介したMMD研究所のレポートのほうがデータとして価値がある。

5. 角川歴彦会長のインタビュー(『新文化』2/21)で、「電子書籍市場は数年後に、昨年の書籍販売金額8013億円の45%を占めるようになる。それで全体のパイは広がり、純増となる。」というビジョンが示されている。これは日本の出版経営者が述べた最も強気の見方だろう。電書が3,600億ほどを売上げて紙の落ち込みがさほどでないことを想定しているものと思われる。出版デジタル機構発足にあたって示されたた、5年後に電子書籍100万点、売上2,000億円がさらに膨張している。もちろん、こうした数字には何の根拠もリアリティもないが、そのつもりでデジタル・ファーストを推進していくことは悪くないと思う。

小田氏は、2010年に出された角川氏の『クラウド時代と〈クール革命〉』に比べてトーンが後退していると感じ、それが〈クール革命〉を担うクールジャパンの失墜などに起因しているように思えるとしている。これは鋭い。“クールジャパン”は、いまや寒すぎる状況で、マンガの海外販売どころか、マンガ作家たちが支えてきた日本の出版の足元が危うい状況だ。もうこれは政府の文化事業の看板だと業界人も思い始めているということなのだと思う。

9. TSUTAYAに代表される複合店のレンタル状況を「2012年パッケージソフト業界総決算」によって俯瞰している。ゲオの旧作100円で始まった「100円戦争」は、回転率の低下と売上減少に直結して経営を悪化させ、レンタル店の閉店が増えている。このレンタルの不振が、その高利益率で成り立っていた複合店のフランチャイズ展開を困難にするだろうというのが小田氏の見立てだ。アメリカでは消滅しかかっていて、日本で増殖しているものの一つだったビデオレンタルも、いずれ衰退するとは考えていたが、なるほどそれは書店の存続とも関連しているわけだ。

『新文化』 (3/1)は、日販の2012年分類別売上調査の年間集計を伝えている。全体の平均売上は前年比5.0%減。8年連続のマイナス成長となった。書籍」全体は同5.6%減。なかでも「文芸書」はなんと16.5%減、「書籍コミック」は同9.9%減と、最大級の落ち込み。「雑誌」全体は同4.4%減。

筆者は、日本のE-Book市場は、欧米とはまるで違った展開をたどる可能性が強いと感じている。つまり、ソフトランディングではなくハードランディング(あるいは墜落)ということだ。市場の縮小、書店の減少、雑誌返品率の上昇、マンガ/雑誌発行点数の減少、そしてアマゾンのシェア上昇などが続けば、数年先には崩落現象が断続的に始まるだろう。書籍の発行点数も激減するが、それで中身が濃くなるわけではない。E-Bookが業界の補完要因にも成長要因にもならない限り、出版社の経営悪化は加速され、それはハードランディングを現実化する。日本のグーテンベルク出版のエコシステムは劇的な形で崩壊し、以後の出版は、既成の出版社以外の企業や外資、インディーズ系を中心としたデジタル出版だらけとなる。筆者はグーテンベルクも好きなので、古書とデジタルに逃避するしかない。  (鎌田、2013-03-02)

Scroll Up