米国最高裁で教科書「価格差商法」が逆転勝訴 (♥)

supreme_court米国連邦最高裁判所は3月19日、安価に入手した教科書の海外版を大量に輸入し、米国内で100万ドル相当を売り捌いたタイの学生をジョン・ワイリー社が訴えたケースについて、6対3の大差で「適法」と認める判決を下した。この行為は著作権法におけるフェアユース法理で認められており、海外で印刷されていたという事実も、First Saleの権利を覆す理由にはならないと最高裁は判断したことになる。内外価格差を利用した学生商法は完全に合法化され、出版社は対応を迫られている。[全文=会員]

教科書の価格差“逆輸出”で高収益、の学生ビジネス

うせd_てxtぼおkタイの学生起業家スーパップ・キルツェング氏は、米国の大学教科書をタイ国内で大量に(原告によれば計120万ドル)入手し、eBayを通じて米国サイドに逆輸出した。価格差はかなりあったようで、学資/小遣い稼ぎの域を超える結構な額を稼いだようだ。ワイリー社の主張では、この商法は同社が保有する版権に含まれる国別の価格管理を無効化するもので、これによって60万ドルの損害を被った。これは米国著作権法に違反するとした。この主張は1審と2審で支持され、フェアユースを主張するキルツェング氏が上告していたもの。多数意見は「著作権法に対し最も懐疑的」と目されるスティーブン・ブレイヤー判事によって書かれ、その逆の立場をとってきたルース・ギンズバーグ判事が少数意見を書いた。最高裁での逆転判決は、出版業界に衝撃を与えており、米国出版社協会(APA)は抗議声明を出した。

フェアユース(著作権者の許諾なく合法的に利用することができる著作物の公正利用)に基づくファーストセール法理(つまり再販売権)の成立の可否は、例えば出版社による小売価格統制や中古コンテンツの販売禁止など、今日的な問題に深く関わっている。具体的には以下の4要素を総合判断して、個々のケースについて裁判所によって決められる。

  •    利用の目的と性格(利用が商業性を有するか、非営利の教育目的かという点も含む)
  •    著作権のある著作物の性質
  •    著作物全体との関係における利用された部分の量及び重要性
  •    著作物の潜在的利用又は価値に対する利用の及ぼす影響

ファーストセール法理は著作権(輸入権)に優越する

ebay本件では「合法性」と「地域性」が問題となった。Ars Technicaのジョー・マリン氏の記事(3/20)によると、もし原告勝訴が確定した場合は、ファーストセール法理は海外生産に関して適用が除外されることになり、生産の海外移転をむしろ促進する(政府・議会が望まない)結果となったという。最高裁の判断はそうした影響を考慮したものだ。また、原判決に対しては、図書館、古書販売業者、小売業者、博物館、IT企業などから強い反対意見が出されていた。ファーストセールは「ないがしろにできないコモンロー上の歴史的に正統な法理」で「それは追跡困難で容易に移動可能な商品に対する規制を課すことに伴う行政的負担から裁判所を解放する」ものでもあるという多数意見は優れた判断だと思われる。

copyright3本判決が直接に影響するのは著作権法が認める輸入権(国際的価格を設定する版権保有者の権利)の有効性だ。少なくともキルツェング氏のような「グレー」と見られてきた存在がシロとなったことで、相対化されたことは確かだ。この判決に対して業界側は、輸入価格統制権の議会による法制強化に向けて動き始めている。しかし、「追跡困難で容易に移動可能な商品に対する価格統制の徹底」という社会的コストを発生させ、消費者の権利を制限し、当該企業とその株主以外の誰も喜ばさない「法律」が仮に通ったとしてもコモンローに優先する可能性は低いと思われる。著作権は版権保有者に無条件の非市場的利益追求手段を与えるためのものではない。

TPPへの参加により、日本はグローバル化した著作物の流通においても米国のルールや慣行との整合化が迫られるだろう。フェアユース法理はもはや「米国では」で済まない。 (鎌田、03/21/2013)

参考記事

註:

  • ファーストセール:著作権者はその著作物の複製物を売却その他譲渡する排他的な権利を持つが,ひとたびそれを売却するとその権利を失い,買主は制約なくそれを処分できるという法理。(Ref:英米法辞典 田中英夫 東京大学出版会 1993)
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