出版に非ず、とSFWAがランダムハウスを非難

Flirt-Alibi-Hydra1米国ランダムハウス社の新しいデジタル専門SF出版ブランド Hydraが作家に提示した契約条件を巡って、SF作家協会 (SFWA)との間で紛争が持ち上がっている。著作権および二次著作権を含め、前渡金(advance)なしという契約条件にSFWA側が激怒し、事実上のボイコット呼びかけに発展したものだ。客観的に見てこれは新しいビジネスモデルとも思えず、長年にわたって前渡金こそが(額の多少にかかわらず)職業作家の証であり、死活的なものであったことを考えれば、作家を怒らせただけだ。

正規出版でも自主出版でもなく…

sfwa_logoHydraは、ミステリのAlibi、青年向けクロスオーバー作品のFlirtとともに ランダムハウス社が昨年11月にスタートしたE-Bookブランドで、自主出版しか発表手段を持たない作家に対し、主としてショート・コンテンツの出版機会を提供することをミッションとしている。ランダムハウスの編集者、デザイン、制作、マーケティング・チームが担当し、SNSツールを利用できる。二級レーベルではあるが「ランダムハウスから出した」と名乗ることも出来る。しかし、内実は「自費」出版に近い。著者が受け取るのは、E-Book版、印刷版それぞれの製作費と販売費を控除した残りを出版社と折半した額だ。もちろん先払いを求められることはないが、売上が控除額を超えるまでは版権料は1セントも入ってこない。これはかなりトリッキーに思える。手取り金が控除で消えてしまう、悪名高い“ハリウッド勘定”のようなもの、という指摘もある。

つまり、Hydraのモデルは出版社の正規のモデルではなく、自主出版モデルでもなく、どちらかといえば古典的な自費出版(英語では 'vanity press'=虚栄出版と蔑称されてきた)に近い。SFWAが憤激するのも無理はない。“世界最大の出版社”にして、これはビジネスとして意味のあることなのだろうか。

伝統的な出版契約では、契約時に著者は前渡金を受け取り、清算時にその額を控除した後で版権料の支払いが始まる。制作費、販促費のリスクは出版社だけが負う。前渡金は著者に対する最低保証額で、実質的には版権料を受け取る以前の生活を維持するとされている。前渡金なし、出版社費用は先に控除というのは、「気長に待っててね」というに等しい。生活の糧を求める著者はやってられないだろう。「こんな条件では、自主出版であまり成功していない著者でも魅力的とは感じないだろう」とWriter Bewareブログは述べている。

SFWAが会員に出した手紙には、版権料の前渡金を支払わないHydraは協会として公認せず、ここから出版した作品は(短編3点以上ないし小説/脚本1点以上という)会員資格の材料とはしないことを述べている。協会は出版社を公認しており、稿料不払いなど問題のある出版社を除外しているが、初めて大手系列のブランドが除外リストに加わったことになる。  (鎌田、03/12/2013)

参考情報

 

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