Frommer“発行停止”で見えた旅行ガイドの落日(♥)

Frommer1Googleは3月22日、昨年8月にジョン・ワイリー社から推定2,300-2,500万ドルで取得した旅行ガイド Frommer’s Guidebookの発行を完全に停止すると発表した (CNN, 3/22)。約350点の既刊本はもちろん、今年発売予定の24点もキャンセルされる。Frommers.comは維持され、オンラインサービスとE-Bookにフォーカスするものと見られている。Googleは2011年9月にグルメ情報誌Zagatも買収しており、出版事業に進出するものとも思われたが、結局、広告事業の部品の一つにすぎなかったようだ。

M&Aのターゲットとなる旅行ガイド

Frommer3旅行ガイドは、オンライン情報サービスの登場で最大の打撃を受けた部門で、2008年以降、10~20%ダウンしたと言われている。Lonely Planetを2億ドルで2007年に買収したBBCは、つい最近米国ナッシュビルに住む大富豪ブラッド・ケリー氏の NC2Mediaに$7,800万ドルで手放した(USA Today, 3/19)。この金額の変化は、経済状況だけでなく、旅行ガイド出版の価値下落を映すものだ。旅行者はガイドブックではなく、TripAdvisor のようなホテルガイド・サイトを利用することが多くなっているが、そうしたサービスは広告モデルで拡大を続けており、もはや取材費をかけて行き届いた編集を行ってきたガイドブックに30ドルも投じる人は減少傾向にある。商業出版社が旅行ガイドを商品と出来る時代は終わったのかも知れない。

地図、交通機関、宿泊、地域・施設情報、旅行記事をコンパクトにまとめた旅行ガイドは19世紀に登場し、以後のツーリズムを支えてきた。ガイド情報はすべて関連サービスと結びつくため、中上流市民のための出版物だった時代には、客観性、正確性の保証として“広告非掲載”が条件だった。高価であることが信頼性を意味したのである。同時代に生まれたジャーナリズムとも類縁関係にある。旅行代理店のトーマス・クックは時刻表と地図、タイヤのミシュランは道路とレストランといった具合に、非出版社系の出版も、それぞれ個性をもっており、多様な需要に応えていた。20世紀に入って旅行は大衆化し、教養よりはレジャーへの需要が高まることで、ガイドの内容は大きく変わり、あるいは多様化した。しかし、旅行関係サービスから膨大な印刷物が無償配布される時代になっても、ガイドが書籍として制作され、書店で販売される限り、他の商業出版物と変わるところはなかった。

決定的な変化は、やはりインターネットによって起きた。広告非掲載は非現実的と考えられ、広告中心の無償旅行情報サービスの拡大で広告からの編集の独立すらも、ビジネスモデルとして成立しにくくなってきた。Googleによるフロンマーの「解体」は、広告ビジネスモデルが商業出版ビジネスモデルを呑み込むことを意味している。相対的に独立していた広告と出版とは、もはやその距離を保てなくなってきたと言ってもいいと思う。

実用書における情報広告モデルの優位

tourism基本的に、すべての旅行関連サービス事業は「出版」のニーズを持っている。つまり消費者、顧客に対してコミュニケーションすべき強い動機を持っている。しかしこれまではパンフレットのような非効率で高コストな手段しか持てず、広告を使ってしか市場にアクセスできなかった。インターネットは、印刷物=書店流通に替わるアクセス手段である。旧来の手段に慣れきっている出版社には積極的動機がなくても、旅行関連サービスは生き残りのためにインターネットを最大限に使う必要に迫られている。そして消費者は無償の情報と利便性に慣れきっている。経済的合理性がどちらにあるかは言うまでもない。

旅行情報という分野は、21世紀の今日、商業出版モデルが成立するには、かなり難しいと思える。旅行産業は「出版」を必要としていたが、ついにその能力を持ったからだ。情報の更新は頻繁なほど良いが、発信力の大きいサービス企業には消費者のアクセス機会が多い。情報の評価システムがネット上で発達してきたので、活字時代のような権威の必要は薄れた。広告業は自らメディアを持つ必要が出てきたので、コンテンツ企業を買収する。また、活字本の時代にはコンパクトにパッケージ化するニーズが強かったが、ネット時代には旅行関連記事(旅行記、教養情報等)などは連携さえできればよい。また書店のアフィリエイトとしてコンテンツ販売のインタフェースをつくることもあるだろう。

雑誌ビジネスがインターネットにあって苦境に立たされているように、旅行ガイドが購読料も広告料も稼ぐという雑誌モデルに移行することは、例外的に高い情報価値と権威性を認められているブランドを除いてかなり難しい。おそらく10年以内に名の知れた(ブランド価値が高く、上場企業が保有している)旅行ガイドはサービス企業、メディア企業に買収され、出版社・出版物としては有名無実化するだろう。しかし、敢えて独立した出版として残るとすれば、読者(ユーザー)の視点に立って情報の選別、評価を行うことだろう。  (鎌田、03/27/2013)

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