出版者のマーケティング・アプローチ (♥)

marketing4出版のマーケティングは、出版者側と書店側とに大別される。前者は「個々の本を売る」ためのものであり、後者は「任意の本のグループを売る」ためのものだ。ストアが「最適化」の方向をコントロールするダッシュボードを持つオンラインの世界では、立場の違いは利害の対立につながる可能性がある。世界の大手出版社がデジタルマーケティングを強化しているのは、アマゾンへの依存性が危険なほど高まっているからだ。では、ふつうの出版社はどうしたらよいのだろう。[全文=会員]

マーケティングなしのブックビジネスはギャンブルである

まずは確認のためになぜマーケティングが必要かを確認しておこう。

インターネット以前:「活字三位一体」の閉鎖系ではマーケは不要

本の情報が限られたチャネルでしか得られなかった時代には、マーケティングの手段も限られており、結局のところ書店の棚とそこに来店する顧客が読む活字メディア(多くは有償の新聞・雑誌)の広告・記事しかなかった。予算があれば(あるいは数万部以上売れる可能性が高ければ)広告を出すが、もともと投資対効果が計測不能である上に、採算点が上がってしまうので、数百万円の広告費を1つのタイトルに出すのは一般的ではない。見本・献本を配り、書評や記事で取り上げてもらう地道な活動は限られた人間を相手にしたもので、消費者にアクセスすることは考えられなかった。

B2C「考えても仕方がない」と思ったら最後、何も考えなくなるのが人間の本性だから、出版業でマーケティングの技術やスキルを考える人材が育たなかったのも無理はない。欧米では卸販売が基本なので大手書店の仕入れ担当者への営業(B2B)だけは時間をかけてしっかりやっていたが、日本ではサイクルが短い上に返本があるので、1冊の本にそう力を入れられない。書店営業の力も弱い。つまりB2Cはおろか、B2Bもやったことがないというのが一般的だ。20世紀はマーケティングの時代と言われたが、この業界は例外であった。それが可能であったのは、新聞・雑誌・書籍の「活字三位一体エコシステム」が機能していたためだ。

インターネット以後:ブックマーケティングはデジタルで始まった

周知のように、オープンなオンライン無料媒体が普及して、有料印刷物を前提とした「活字三位一体」は日に日に衰弱している。コンテンツの電子化とはとりあえず無関係に、消費者のメディア環境(メディアライフ)が激変した。本に関する情報はWeb経由で得られるようになり、しかも既存メディアの書評よりも、オンラインストアの読者評、ブログ、SNSなど非伝統的な情報源の影響力が増した。何よりも本に関して発言し、情報を集める個人が目立つようになった。情報の発信と収集のコストは劇的に低下し、オンラインビジネスはその状況を利用して消費者と直接結びつくようになった。

digital-marketing-banner本が持つ類いまれな商品特性(人間活動のあらゆる側面と結びつく)に注目したアマゾンは、当初から本のマーケティングに最適化したインフラを構築し。紙の本で成功させた。いちばん難しいもので成功させたのだから、今日デジタル・コンテンツでトップを独走しているのも当然と言えよう。他方、業界共通のエコシステムに慣れ切っていた出版社は、独自のマーケティング体制を必要とするネット時代の現実に気づくのが遅れた。ライバルやアマゾンとの競合に勝ち残る必要から、世界の大手出版社は現在、独自のインフラを構築に全力で取り組んでいる。

本のために用意された窓口(書店の棚、書評欄、広告など)は、ますます効率を低下させている。日本の構造不況を見ても分かる通り、紙もデジタルも同じ。ネット時代において重要なことは、極論すると、デジタルコンテンツではなく、デジタルマーケティングが機能しているかどうかなのだ。コンテンツなくして本は存在しないが、マーケティングなくしてブックビジネスは存在しない。著者が出版社に最も期待していることは、広く流通させることを除けば、マーケティングなのだ(下の図はDigital BookWorldの著者アンケートの結果)。

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