ソーシャルリーディングの価値とは何か (♥)

SReading億ドル台と言われるアマゾンのGoodreadsの買収は、最近の最大の話題になった。Kindle以降に生まれた純粋なE-Bookベンチャーが、バブルでもない状況で8桁に評価されたのは、その価値を表している。それは同時に、ソーシャルリーディングとその機能、可能性というものに対する評価でもある。アマゾンなどのプラットフォームは、なんらかのソーシャル機能を持っている。しかしそれだけでは十分ではない。では何がGoodreadsを特別なものとしたのだろうか。[全文=会員]

150万ドル(?)ベンチャーとしてのGoodreads

デジタル出版ビジネスは勃興期にあり、起業やM&Aが加速し、年々投資金額が拡大している。Goodreads (GR)をはじめとする最初の波のスタートアップ企業が2007-8年に起業した。Web 2.0のコンセプトが提唱され、ソーシャル・ネットワーキングが立ち上がった時期で、E-BookビジネスにおいてSNSを機能させることがテーマとなった。この時期はとくにソーシャルリーディング(SR)が多い。

books-added-by-monthGRがこのカテゴリでトップに立ったことは、ユーザーがサービス価値を認め、活発なコミュニケーションを行うようになったということであり、システム(バックエンドとUIを含めたUX)とサービス・オペレーションが優れていたことを示す。GRはユーザーの既読あるいは読書中の本のリストである 'Bookshelves' とレビューを中心に回っており、友人と見せ合うことでコミュニケーションを助け、次に読む本のヒントを与える。読者のソーシャルと同時に著者と読者の中間に位置することから、酷評された著者とのトラブルも経験し、書評掲載の方針を改訂したこともある。簡単なことではない。

goodreads_BC本と同様、消費者も多様なので、巨大な顧客ベースは、一般の読者からかなり凝った本の虫まで、幅広い層に利用されていることを意味する。サイトを立ち上げるのは簡単だが、使ってもらうのはかなり大変なことだ。GRは本を推薦するサイトであり、ユーザーが納得するもの、その質と量において他とは少し違うものを提案すると評価されないと成長はしなかったはずだ。サービスにおいて成功したら、次は、上場するか、売却するか、そのまま続けるかということになるが、運用コストは増大するので、現金が必要だ。1,600万人のユーザーベース、2,300万のレビュー記事を背景に、本の販売をするか、出版社から広告料を取ってマーケティングを支援するか。どちらも現在のサービス価値を毀損する可能性がある。

データは古いが、CrunchBaseによれば、GRは75万ドルで起業し、2011年に200万ドルを調達して同業のDiscovereads.comを買収した。1.5億ドルという推定買収金額が正しいとすれば、54倍でキャッシュアウトしたことになる。Facebookクラスではないが、かなりの成功と言えるだろう。ではアマゾンの意図は何か。すでにShelfariを保有し、またLibraryThingの少数株主(40%)でもあるアマゾンにとって、GRはかなり厄介な存在だった可能性がある。NYのコンサルタント、マイク・シャツキン氏によれば、GRはまさに本の販売に乗り出そうと準備を進めている最中だった。SRでダントツな企業の小売参入を阻止したという点で、同氏はアマゾンにとって賢い買い物だったという。

出版のサプライチェーンにおけるGoodreads

amazon_logo「アマゾンがGoodreadsを買収したことが問題なのではない。なぜもっと前に出版社が買っておかなかったのかが問題だ」と作家のニック・ハーカウェイはTweetした。フォレスターのアナリストでユーザーでもある、ジェームズ・マッキヴェイ氏もForbes誌で同様の感想を述べた。Digital Readerのネイト・ホフェルダー氏は、大手出版社は独自のサイト (Bookish)を構築中だったから、と見ている。GRの価値と重要性はつとに知られていたのだ。アマゾンが買収する理由は十分にあった。

Digital Book World (DBW, 3/28)のグリーンフィールド編集長は、可能性を次のように推測する。

  1. サイトのデータを使って、アマゾンの推薦機能を改善する。
  2. 他のリテイラーの「購入」ボタンを撤去する。
  3. GRの書評でアマゾン読者評を補完する。
  4. 出版社向けのマーケティング・ソリューションのセットにGRを加える。
  5. 特になし。GRは2011年末からユーザーを3倍に増やしている。

SNSで反響をチェックすると、GRのユーザーは警戒感を示しているものが多い。GRがユーザー主導の「推薦エンジン」から、アマゾン主導の「マーケティング・エンジン」に変わるのではないか、ということだ。しかし、アマゾンにとってそれは無意味なことだ。GRはユーザー主導であるから貴重なデータを提供してくれるのであり、その点ではユーザーと利害を共有している。アマゾンにとっても、SRエンジンが一本化されれば、多様性が失われ、ベースが拡大しても価値は下がるからだ。アマゾンのネット帝国は、一枚岩的なものではなく、連邦型を志向している。アマゾンにとっては、GRが敵対的な(つまり小売の顧客を奪う」ものでなければ十分で、独自にユーザーの拡大を続けることがベストなのである。この点で、IT企業の一般的M&Aスタイル(顧客と中核的人材だけを残して、製品/サービスは統合)とは違っている。

TereRead (4/2)のジュリ・モンロー氏は、GRが「才能の発掘と育成」という、作家が最も期待する役割を果たしていることを買収の理由の一つに挙げている。これは重要な指摘だ。作家と読者の間に立って不可欠の存在となることを戦略の基本に据えるアマゾンにとって、「才能の発掘と育成」はこれまでも追求してきたことだ。しかし、アマゾンの顧客による「ユーザーレビュー」は、出版社が提供する Bookishサイトと同様にバイアスがかかっている。特定の作者・作品を売りたい出版社とも、「売れるものを売りたい」書店とも異なる第三者の眼としては、プロの書評者による書評があるが、彼らも業界の人間であり、読者とは近くない。アマゾンは巨大なデータを持っている。しかしそれは単眼ではなく、複眼で捉えられてこそ、複雑な意味を読み解くことができる。

投稿型ソーシャルリーディング・サイトWattpadが「育てた」作家がメージャー・デビューしているように、読者はプロ以上に読みたいものを知っているのだ。GRの存在と役割をアマゾンは評価したと考えるのが妥当だろう。買収し、傘下に入れたことでそのたちが毀損されたら、それはアマゾンにとっての損失だ。チャンドラー夫妻はそれを知っているから売却したのだろう。  (鎌田、04/04/2013)

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