サービニスCEO、Koboの現状と戦略を語る(1/2) ♥

mike-serbinis-300x220最大市場の米英ではあまり目立たないが、B&Nが没落する中で昨年もシェアを拡大させたKoboは、やはりアマゾンを追う存在だ。マイク・サービニスCEOが現状と世界戦略について語ったインタビューが4月5日の Digital Book Worldに掲載された。(1)日本市場、(2)Koboの現状と世界戦略、(3)米国市場、(4)タブレット、価格戦略、DRM、自主出版…など多岐にわたっているが、ここでは日本市場についてのコメントを中心に紹介し、解説してみたい。[全文=会員]

Koboはもちろん楽天の傘下にあるが、それでもサービニス氏は企業価値のかなりの部分を占める。今日で言うクラウド・サービスのスタートアップ DocSpace の創業者で、1999年末に5.4億ドルでCritical Pathに売却した後も、ドットコム・バブルの崩壊で苦境に立った親会社を黒字転換させた実績は、非凡な能力とともに、沈着で誠実な性格を証明している。カナダ出身で、基礎工学と生産管理の2つの学位を持ち、マイクロソフトで研究開発にあたった後、シリコンバレーで起業家としての道を歩んだ。カナダの書店チェーン、インディゴ社がKoboを設立したのは、トロントに帰った彼と出会ったからだ。アマゾン、アップル、B&Nといった米国の巨大企業に抗して起業するのは容易なことではないが、それ以上に、グローバルに事業を継続・拡大させていることが驚異的でもある。世界的視野を持っているからだ。

日本はむずかしい

カナダでのシェアで50%近くを維持しているKoboだが、日本では苦戦しているようだ。「日本は大きな市場ではないし、その気配もありません。それでもKoboにとっては重要な市場ですよね? オーナーの楽天が日本企業だから」というグリーンフィールド編集長(以下JG)の質問に、日本の特殊事情から話し出して口を濁していたが、重ねて「市場のサイズ以上に重要ではありませんか?」と聞かれ、「一言でいえばイエス」と答えた。そつのない答とはほど遠い。JGはさらに、高度な技術社会の日本でE-Bookの普及が進まない理由を尋ねる。

「コンテンツの数から言えば、現在日本語タイトルが13万点で、カタログの規模としては最大級です。しかしトップの5,000点の割合を、市場が始まったばかりのイタリアなどと比べてみると遥かに少ないのです。他の国では、紙の本のトップ1,000点、5,000点の8割から9割がE-Bookで読めます。日本ではほど遠い。」なぜか?「E-Bookは紙の本と同時に発売されません。出版社はそうした体制をとっていません。米国では3~5年前に始まったことですが。私たちはその方向に進むよう出版社と協力しています。」それに「デジタル化がなかなか進んでいません。標準化が進んでEPUB3を採用するにも時間がかかるのです。」その結果消費者も「話題の本の電子版がストアにもなければ、やはりE-Bookはまだなんだと思ってしまう」ことになる。

MSが言うように、13万点は相当な数で、いくら年間7万点以上を出版する日本でも、書店をやるには十分とさえ言える。13万点あっても市場が立ち上がらないのは、その中に売れる本はもちろん、出版社が本気で売りたい本が少ないからだ。ふつうの大型書店が置いている13万点ならば…とMSは言いたいのだろう。スペースに制約のある書店の10万点は「本命」の10万点。では日本のオンラインストアの10万点は「ダミー」あるいは「義理」とでも言うか、自信も意欲もありそうなのは1割以下だろう。タイトルは多いのに、出版社の心がまだ市場にはない、というかなり理解しがたい状況を彼は説明しようと苦労していたのだ。

日本についてある程度の知識を持っているJGは、バウカー社の国際比較調査(2012)を念頭に「文化的問題もあるのでは?」と水を向ける。MSの答は、日本での書店の数の多さ、紙の本の安さなど、日本でよく聞く“公式説明”とも似ているが、まったく同じではない。

「紙の本は…通勤者には地元の売店(newsstand)で比較的安く入手でき、便利なので生活に定着しています。仕事の行きにも帰りにもマンガを、という文化では、携帯性や利便性というE-Bookの利点は、さほど重要ではないのです。」「他方で、印刷本の感触や匂い、外観を愛する伝統主義者は根強く、まだ支配的です。」「楽天のCEOは日本における本の世界を変え、私たちのプラットフォームを通じて日本の文化の精華を世界に輸出したいと念願しています。」

bowker-chart2欧米人の認識では、日本のほとんどの書店は bookstore ではなく、雑誌を主体とするnewsstandに近く、そこで売られているのもマンガ中心。日本人がマンガを読む姿はよく見かけても、本を読む姿はめったに見ないということから、日本人の(相対的)活字嫌いは世界的に有名だが、むしろ本好きのデジタル嫌いが問題だろう。MSのこのコメントは、消費者のニーズが弱いうえに出版社もその気がないと示唆しているようだ。楽天・三木谷氏と出版業界との親密な関係を多少は信じたであろうし、急ピッチで積み上がるタイトル数にも期待しただろうが、そうした幻想を取り去ったところからスタートするしかないと実感したのだろう。

重要なのは顧客の質と書店の能力

しかし、アマゾンは新本・古本を問わず、紙の本を偏愛する人を顧客にしているし、読みたい本さえあれば、手の出る価格であれば、彼らもE-Bookを拒否するものではないことを知っている。筆者も和書は主に古本、洋書はすべてE-Bookだ。Koboは日本市場の変化を待つべきではない。変化が起きた時にはアマゾンが遥か先を行っているから。月に何冊も読む人間もいる一方で、まったく本に縁がない人間もいる市場では、読む人間が最重要な存在で、現状で彼らに働きかけるには、書店を通すしかない。

logoKoboはGoogleに代わって米国の独立系書店団体ABAE-Bookプログラムのパートナーとなったが、最初の1ヵ月で、Google時代の2年間の売上を上回った (DBW, 4/5)。専用デバイスを持っていたことが大きいというが、書店にとって魅力的なプログラムとするための努力(あるいは動機)がGoogleには欠けていたということだろう。ABAとの提携についてMSはこう言う。

「店の大きさより、その地域の顧客層の質と店の販売能力が重要です。ABAの加盟店のいくつかは、カナダのChaptersや英国のWHSmithの大型店に匹敵するところがあります。1000平米や2000平米の小さな店でも、大型店に劣ることはないのです」

これは重要な指摘で、彼が書店ビジネスの本質を理解していることを示している。E-Bookは商品規模を競うビジネスではない。顧客の質と店の能力とのマッチングが問題なのだ。アマゾンは日本で10年、米国で15年以上かけて顧客ベースを築き、アフィリエイトのネットワークとアルゴリズム・マーケティングの能力を高めてきた。差を詰めていくには、書店のとの信頼関係と、柔軟なシステムにサポートされた緊密な連携しかない。ABAとのパートナーシップで多くを学び、日本でより進化したモデルを発展させることを期待したい。(鎌田、04/11/2013)

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