NYタイムズ電子版購読者数躍進の“虚構” (♥)

newspaper_crisis米国メディアの発行部数公査機関 AAM (旧ABC)は4月30日、12年10月~13年3月の半年の北米の新聞社発行部数データ(約700社)を発表し、1.4%ダウンしたもののデジタル購読者が14.2%増加し、日刊紙発行部数の19.3%を占めたという“明るい”面を強調した。しかし、AAMのデータは信頼性に乏しく、実際には減っている可能性もある。デジタルの計数方法について広告主の理解が得られなければ、メディア業界が自分の首を絞めることになる。[全文=会員]

「購読者」というフィクションの終わり

Alliance for Audited Media (AAM)は、出版・広告・デジタルメディア企業が共同で運営するNPOで、発足して1世紀あまりを経た昨年11月に、米国のABCが改称したもの。新聞・雑誌発行部数で知られているが、近年はWebやSNS、モバイルWebなどデジタルメディアまでカバーしている。新聞のデジタル版は、紙とWeb、無料と有料の様々な組合せがあり、年々変化しているために問題が生じやすい。結果として、ABC時代のような権威がなく、肝心の広告料算定において使われることが少ない。

さて、AAMの発表によれば、NYタイムズのデジタル購読者は、3月末までの6ヵ月間の日平均で前年比18%伸びて187万人と2位に食い込んだ。1位は Wall Street Journalで、12%増の238万。USA Todayは7.9%ダウンして167万。となっている。NYTはペイ・ウォール導入以降、拡販キャンペーンをたびたび行っており、これが功を奏したものと日本でも伝えられた。しかし、ものごとにはウラがある。AAMは今回の調査から集計方法を変更し、1日に複数のデバイスで読む読者を別にカウントした。その結果、PCとスマートフォン、タブレットでそれぞれ読んだ読者は3人とカウントされる。3月末時点の有料オンライン読者は67万6,000人なのに、デジタル購読者は113万人となっている。

newspaper-ad-revenueAAMも「一部の新聞社が新しい購読形式を始めたり、日刊紙の印刷を停止したりなどしたために、今回の数字は実際には前年の数字と比較可能なものとはなっていない」とコメントしている。このことは、購読者数という安定した尺度をもとに閲覧者数(広告露出)、広告到達率、広告効果測定などを行ってきたメディア/広告業界が漂流し始めたことを物語っている。これまで印刷媒体は「発行部数」「購読者数」といった「数」を競い、それを多めに見せるキャンペーンを行ってきた。インターネット時代は、個々の「読者」の広告へのアクセスや振舞いが、かなり客観的な計測の対象となることで、旧来の「到達率」を相対化している。広告業界がデジタルにシフトするほど、過去の遺産を背負った新聞・雑誌業界の苦境はますます深まっていく。(上の図はWashington Postの記事から)

英紙Guardian系 paidContentのマシュー・イングラム氏は「新聞業界は購読数に関して自分自身と広告主を偽ることを止める必要がある」とコメントしている (5/1)。AAMの漂流は広告業界にも損失をもたらしていると考えられる。広告主が納得する客観的計測手法を開発・定着させるには数年かかる。しかし短期間での移行に失敗すれば、印刷媒体は印刷・流通部数とともに滅んでしまいかねない。 (鎌田、05/02/2013)

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