BooXtreamの電子透かしはDRMを越えるか(♥)

the-great-walオランダのITスタートアップ企業Icontactは、インディ・ブックストア向けに“ソーシャルDRM”と称する電子透かし(digital watermark)技術を、子会社であるBooXtream(ブックストリーム)から提供しているが、このほどEPUBだけでなくKindleでも利用可能にしたものを販売している。読書体験を邪魔しないソフトな複製防止を使いつつ、オンライン・ストアをスルーしたい直販志向の出版社や独立系書店に普及するかどうかが注目される。[全文=会員]

DRMは鍵か封印か?

092412-booxtream『ハリー・ポッター』関連のデジタル・コンテンツ提供サイトPottermoreは、ソニーが構築を支援したものだが、Sony ReaderをはじめKindle、Nook、Koboなど複数のプラットフォームをサポートしつつ、DRMの代わりに、簡易DRMとも言えるウォーターマークで代用する方法を採用した。その技術を提供したのがBooXtreamだ(The Digital Reader, 3/28/2012)。同社の技術はオーディオブックやmp3コンテンツで使われているが、アマゾンとアドビのDRMが先に普及したため、E-Bookでの採用はまだ少ない。電子透かしは、購入時にファイルの中に(文字列として)挿入されるが、DRMと異なり、引用の共有などの利用を監視したり制限したりせず、購入者を特定することで複製を抑止しようという緩いものだ。同社では“ソーシャルDRM”と称している。

emboss意外と知られていないことだが、KindleやKobo、iBooksなどのコンテンツに互換性がないのは、ファイルフォーマットのためではない。DRMという施錠のせいだ。KindleのMobiはオープンソースであり、EPUBも同様で、相互変換が容易なことはすでに証明されている。同じEPUBのiBooksとKoboのコンテンツの間に互換性はないのもDRMのせいだ。出版社にとってはフォーマットの互換性だけが問題なのだが、読者にとってはストアのDRMの互換性がないと自由にデバイスを選べない。

アマゾン、アップルはそれぞれ独自のDRMを使い、その他多くはアドビのを使っている(ので、技術的にはストア間の相互乗り入れは容易だ)。DRMの鍵としての強度は変わらず、どれも「意思と能力を持った」海賊、および海賊が使う道具をダウンロードする一般人の前には無力だが、敢えてそうしない良識あるユーザーにだけは「封印」のような心理的拘束力を持つ。欧米の出版関係者は、彼らが怖れるのが海賊ではなく、一般消費者(が紙の本と同様な貸し借りや再販売を行うこと)であることを隠そうとしていない(例えば英国出版協会のアーシュラ・マッケンジー会長)。だから、シンプルなDRM外しは、技術者やSFファンなどコミュニティを相手にしているオライリーやトールのような専門出版社以外にはなかなか広がろうとしない。

sealed_bookDRMの副作用(実害)は、事実上アマゾン以外のすべての関係者に及ぶ。DRMによってユーザーはプラットフォームに拘束され、自由は制限される。同時に出版社も読者と直接にコンタクトすることが出来ず、プラットフォームに依存する。ユーザーを信用できないことで、(大きな)プラットフォームだけが得をしているわけだ。出版社は自ら著作者に対して、海賊やユーザーによる違法複製の脅威を強調していたために自縄自縛に陥っている。このままではアマゾンが全出版市場の5割のシェアを制してしまうという段階になって、ようやく動きが出てきた。Pottermoreはその一つだ。

しかし、すでに英語圏市場ではアマゾンの優位が確定している。KindleユーザーはDRMによるフラストレーションを感ずることが最も少ないから、他のプラットフォームに乗り換える可能性も低い。オライリーは、EPUBとともにMobiファイルもDRMなしで直販している。しかし一般向けとしてはコピーガードがないと具合が悪いこともあるし、出版社の商品を販売するストアの場合にはなおさらだ。BooXtreamはそうしたニーズを埋めるためのものだ。ウォーターマークは「蔵書印」のように購入者を明示し、しかも消えない。違法複製は簡単だが、追及を逃れることは出来ないので、企業文書などで使われている。「封印」としては十分なものだろう。アマゾンの万里の長城を破るものがあるとすれば、こうしたシンプルな技術だろう。使うかどうかは出版者の意思にかかっている。  (鎌田、05/16/2013)

Comments

  1. ウォーターマークを外すグロラムはだれでも簡単に作れてしまうことが問題ではないしょうか?

    • ご指摘ありがとうございます。
      BooXtreamのウォーターマークのハッキングの難易度について情報を探していますが、DRMより難しいことはないでしょう(画像のウォーターマーク外しよりは面倒だと思いますが)。DRMもウォーターマークも技術的には「完全」ではありませんが、それが求められているわけでもありません。問題は出版ビジネスにとってのプロテクト技術のバランスシートです。DRMに関していえば、
      1. DRM使用料(実費)
      2. 読者管理の可能性の放棄(マーケティングの機会喪失)
      3. 消費者/著者の不満(コンテンツの価値/効用の低下)
      が出版社側が負担する有形無形の「コスト」だと考えられます。得るものは違法コピーの予防ですが、これは金銭評価ができません。
      『ハリー・ポッター』は紙の時代にスキャンものが多数出回り、販売もされていましたが、Pottermoreがまずまずリーズナブルな価格で販売したことで、少なくとも商業的な海賊版は消滅したと思います。非商業的なファイル共有がどうなのかは不明ですが、著作者にとってネガティブなものではないと思われます。
      IDPFの Light Weight DRMが、上記のDRMの欠点をどう改善するのか。ご存知でしたら教えてください。(鎌田拝)

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