加熱する自主出版ビジネスに初の集合訴訟 (♥)

AuthorSolutionsペンギン傘下の有力自主出版サービス Author Solutions (ASI)に対して、4月26日、ニューヨークの法律事務所(GSAS)を通じ、少なくとも3名の著者から「詐欺的商行為」を伴う「契約違反」があったとして500万ドルの懲罰的賠償を求める集合訴訟が提起された。ASIは業界では最も多くの顧客を持つが、クレームが多いことに目をつけたロー・ファームが訴訟を仕掛けたことで、この新興ビジネスの裏事情を含む多くのことが明らかにされそうだ。それによって、このビジネスが社会的に定義される。[全文=会員]

著者から料金を徴収して稼ぐAuthor Solutions

嫌疑はカリフォルニア州事業・職業法 (California Business and Professions Code)およびニューヨーク州一般事業法 (New York General Business Law)を違反し、著者に損害を与えたというもの。具体的には、(1)本来支払うべき版権料の不払い、(2)精確な販売報告の不履行、(3)数々の誤字を混入、(4)無用かつ効果のない販促サービスを販売、などが含まれている (Courthouse News Service, 04/30)。

keith-ogorek-author-solutions訴状によれば、ASIの約1億ドルの売上の約3分の1は書籍の販売から、残りを編集、フォーマット、デザイン、制作、マーケティングなどのサービスから得ている。しかしASIは誤植、フォーマット・エラーなど数々のミスによって著者に損失を与えただけでなく、訂正に際し数百ドルにも及ぶ料金を請求した。契約上、本来は無料で行うとされてきたが、そうした例は少ない。マーケティングから多くの収入を得ているが、最大数万ドルものサービス料を徴収している。ASIは出版社を名乗っているものの、実態は印刷業にすぎず、著者から利益を得るのではなく、著者の利益を図るという出版の基本を逸脱している。(左の写真はASIの広告塔として活躍しているキース・オゴレック副社長のパロディ)

もちろん、ASIには反論があるだろう。ASI側が起こしたエラーに対して訂正料金を請求したというのは、入稿原稿からの変換ミスで生じた事故の後始末に過ぎない可能性があり、原稿ファイルの不備を主張するかも知れない。マーケティングに過大な期待をし、金に糸目をつけなかったのは顧客の問題であって、結果を約束したことなどない、等々。しかし、本件の本質は勝敗とは別な、ビジネスモデルにある。

自主出版支援か自費出版請負か

自主出版支援サービスは、著者による出版を支援し、基本的には成功報酬で利益をシェアするというビジネスモデルだが、それに対して、出版関連の専門サービスを著者/出版者に提供して代価を得るのが自費出版請負サービスだ。前者は self publishing、後者は vanity publishing(虚栄出版)という言葉が使われているが、その差は「方向性」と「程度問題」ということでしかない。商品性のない大部分の出版プロジェクトを手伝うよりは、むしろ著者からサービス料を得る機会としたほうが儲けは確実になる。

alikeASIは自主出版のブーム以前に創業し、自費出版で手堅く稼いでいたのだが、Kindle以降、デジタルが中心となり、出版需要が急増したことで年商1億ドルまで急成長を遂げた。新しい顧客の大部分は、ASIのサービス(あるいは体質)を理解していない。新世代の自主出版サービスやアマゾンのKDPなどと比べて、「無用なサービスに不当な料金」を請求されたと感じる顧客が多いことは想像に難くない。要求とサービスのミスマッチだ。対面営業なら問題が大きくならないうちに対処されるが、オンラインだと対処が遅れる。それにしても、数十ドルから数万ドルまでのサービスを同じインタフェースで処理する神経の太さは感心する。

ロー・ファームとしては、ASIが事業的に成功し、さらにペンギンの傘下に入ったことで格好のターゲットと見えたのだろう。ASIを独自に調査したうえで集合訴訟への参加を呼び掛けている。ネット上には事例が氾濫しているので、調査は難しくないだろう。裁判を通じて、明らかになるとすれば、自主出版支援と自費出版請負という似て非なるビジネス(サービス)について消費者への説明義務を放棄し、むしろ混同によって事業を拡大させてこなかったか、ということだろう。仮にASIが勝訴するとしても、後者のイメージに染まってしまうことで将来の顧客を失うマイナスはかなり大きそうだ。つまり、和解の可能性も大きい。オーナーは天下のペンギンであり間接的にはランダムハウスだ。「虚栄出版」請負業という過去のネガティブ・イメージの後始末に追われることは避けたいだろう。しかも、ASIのCEOはケビン・ワイスから、ペンギンが指名したアンドリュー・フィリップスに交替することになっている。GSASはさすが鋭い。 (鎌田、05/07/2013)

参考記事

Scroll Up