ショート・コンテンツ市場の発見と創造 (♥)

short_storiesNYタイムズは4月22日の読書欄でアマゾン出版の Kindle Singles を取上げた記事を掲載した (By Leslie Kaufman, 4/22)。これまで実績など詳細が明らかでなかったこのショート・コンテンツの状況をデイビッド・ブラム編集長とのインタビューから聞き出すことに成功している。27ヵ月で345点という出版点数(価格は1~3ドル)に対して、販売数は500万(月間18.5万、毎日6千)というと相当な規模だ。しかし、戦略的意図はそれ以上に重いものがある。[全文=会員]

社内ベンチャーの戦略的意味

Kindle_Singlesアマゾンのショート・コンテンツ Kindle Singles (KS)は本誌でも何回か取り上げたことがある(例えばこれ)。KSは書店と出版社という2つの側面を持っている。まず厳選されたショート・コンテンツを販売するミニ・ブックストアで、アマゾンの内外で出版されたタイトルを扱う。平均的な価格は2ドル未満。何を売るかはブラム編集長が専決する。同時にアマゾンのミニ出版ブランドで、他の出版社に伍して独自の価値を訴求するタイトルを出版する。ここでもブラム編集長が原稿を読み、編集したものしか出さない。つまり、最も古臭い本屋兼小出版社のスタイルだ。どうみても儲かりそうもない。

しかし驚いたことに、KSは過去27ヵ月で500万部近くを売上げている。月平均では18.5万、1日6千部という計算だ。ストアのリストは345点なので、1点平均14,500部にもなるが、記事によると345点中245点は1万部に届いていない。5万部以上行ったのは28点、1~5万部が72点。ベストセラーで25万部。著者印税は70%なので、平均価格を1.5ドルとすると、一般的には数千ドルの収入にはなる。支払いサイトが3ヵ月以内ならば、原稿料としては悪くないし、なによりモチベーションが違う。

100万点規模の膨大なタイトルを扱い、圧倒的なシェアを持つアマゾンにあって、年間数億円規模のビジネスは目立つものではない。しかし、KSの持つ意味はけっして小さくない。それは、この長さのコンテンツが、印刷本の書店流通に不向きである(束が出ない)ことから伝統的に忌避されてきたもので、逆に潜在市場が大きいからだ。少なくとも億ドル(100億円)規模にはなるだろう。人々が読書に親しむきっかけ、あるいは作家やノンフィクション・ライターの登竜門としても相応しい。これはKindleによって発見され、実証されたことだ。KSの成功がニューヨークの出版界で注目されているもう一つの理由は、アマゾンがこの戦略部門を、20世紀で終わったと考えられていた昔気質の“リストラ編集者”に委ねたことだ。

作家、ライターの支持を得る Kindle Singles

5,000語から30,000語の厳選されたフィクション/ノンフィクション・タイトルをKindle Singlesというブランド名で売り始めたのは2011年1月からだが、これまであまり注目されてこなかった。英文1語=邦文2.5文字と換算すると、邦文12,500字~70,000字。昔風に400字詰め原稿用紙で換算すると31~175枚。700字詰めの文庫本に換算するとざっと18~100ページということになる。紙の出版として見ると、この種の短編(ショート)や中篇(ノヴェッラ)は本にはならず、雑誌には載せにくい。何本かセットになるか、逆に分割されない限りは活字印刷物にならなかった。

book_binding本来分量と価値とは関係がないが、紙の本の場合には分量と価格、そして商品価値との関係は切れない。背文字が小さく、書棚で立たないものは嫌われる。和本が消えた理由でもある。ボッカチオからヘミングウェイ、芥川まで、傑作は多いが、逆に言うと、大作家が雑誌などに書いた傑作小品だけが商品として存在しているとも言える。これはもの書きの側からすればじつに不合理な話だ。とくに新人のデビューの門を狭くしてきたと言えるだろう。つまり雑誌以上、単行本未満は、出版において未開拓の分野で、E-Bookと自主出版でこのサイズのものが急増したのは、それだけライターのニーズがあったからだ。文芸誌はもとより、雑誌そのものが退潮していることもあって、ライターはしだいに発表の機会も収入源も失っているのは日本だけではない。(→次ページに続く)

Pages: 1 2

Scroll Up