米国デジタル出版革命の総括 (1) 出版社

bookstatsvol3_mediumBookStats 2013については、先週号で紹介したが、無料で得られる要約情報としては、BISGが5月15日に開催したセミナー(MIP=Making Information Pay)で調査関係者が発表した資料が、いまのところ最も詳しいので、これをもとに解説してみたい。このデータの意味は、最も包括的で精度が高いものであると同時に、2008年から5年間に米国で起こったデジタル出版革命の実相を、初めて説得力のある形で示しているということだ。デジタル・コンテンツは30億ドルで商業出版の20%に達したが、出版業界はこの激変を乗り切ったと考えている。他方でオンライン流通はさらに拡大し、アマゾンの力が強まった。次には何が待っているのか。

cube-combined市場の統計を得るのは、データの収集から修正・補正も含めてかなり大掛かりな作業が伴う。とくに過去にまで溯ってデータを入手し、再構築していくのは相当の執念が必要だ。市場を左図の3次元モデル(出版分野/チャネル/フォーマット)に基づいて構造化する手法は、膨大な生きたデータをリアルタイムで生成している。ということで、公開されているデータの断片がタダの断片ではないことを確認しつつ、以下は、ネッド・メイ氏(Outsell 副社長)とレン・ヴラホス氏(BISG常務理事)の発表資料(PDF1PDF2)に基づいている。

米国出版業界は未曽有のインフラの変化をうまく切り抜けた!?

USBookSales今回初めて明らかにされた2012年の米国出版市場の規模は271億ドル。興味深いことに、これは2009年の水準と全く同じで、2008年以来の5年間で6億ドルしか変化していない。デジタル化の波が出版界に押し寄せ、Web出版の拡大によって音楽産業や新聞など他のメディアに大きな影響を及ぼした5年間に変化がないと言うのはどういうことか。メディア調査会社Outsellのネッド・メイ副社長によれば、これは「デジタルによる破壊的イノベーションにもかかわらず、出版産業がうまくやった」ことを意味するものだと言う。ランダムハウスのデイブ・トムソン副社長も「われわれはデジタルへの移行を他産業よりもうまく切り抜けた。そのことはデータが示している」と述べた。下図は商業出版におけるフォーマット別の増減。

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紙はもちろん減っているのだが、彼らがそれを嘆かない理由は3つ。

  1. 懸念されていたのは(とくにWebメディアの脅威を受けた)出版ビジネスの将来であった
  2. 商業出版では紙の落ち込みが少なく、デジタルが全体の成長を牽引し、利益率を高めている
  3. デジタル出版が成長機会であることが明確になったことで資金や人材が流入している

2010年、出版業界がもっとも懸念したのはCDという殻(パッケージ)を失うことで、商品としての中身(コンテンツ流通)の主導権を失い、ネット世界に吸収されてしまった音楽業界の後を追うことだった。このネットへの吸収は起きなかった。本はコンテンツとして(出版業界の手の届かないところへ)流出することなく、商品としての独立性を保っている。音楽におけるアップル iPod/iTunes はユーティリティとなって音楽の流通を支配しているが、書籍におけるアマゾン Kindleは、スーパーリテイラーではあっても、いまのところそうした存在ではない。むしろリアル書店を滅ぼすものと見るか、その減少を補って余りあるものと見るかは立ち位置によって違う。かつて出版社は書店とともに滅びる脅威を感じていた。現在はそう感じなくなったということだ。

Channel

そして、決定的なのは後者だろう。例えば2012年の市場全体の55%を占める一般商業出版において、紙以外(E-Book+オーディオブック)が1年で10億ドル近く伸びたのに対して、紙はほとんど変わっていない(2,500万ドルの減少)。紙の減少は、売り切りの量販本が中心であり、これがデジタルに置き換わることは出版社にとっても理想的な展開といえる。印刷本の一部がE-Bookやオンデマンド印刷に置き換わることは、出版社にとって利益率の向上を意味するのでプラスが大きい。米国の出版社は、デジタル革命の5年間を最高の形で生き残ることが出来た。5年にわたるデジタル革命において、出版社は(少なくとも)敗者ではなかった。

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上の図は、5年間のE-Book市場の成長と成長率を見たもの。成長率は2012年にかけて鈍化したが金額ベースでは10億ドルに近い。今年以降も、デジタルが出版ビジネスを牽引するとほぼ誰もが考えている。

ところで、商業出版物以外の分野における紙の減少は問題ではないのだろうか。出版社にとっては問題ない。児童書、高等教育図書、学術・専門図書は、不特定多数を相手にしたものではなく、非書店流通が多いので、出版社は商業出版よりはマーケティングに習熟しているし、容易にデジタルサービスとコンテンツを結びつけることが出来るからだ。一部の書店にとっては貴重な高額本の市場と読者を失う可能性がある。しかし、出版界はすでにデジタル主導の流通再編をあまり深刻なものとは感じなくなっている。商品を開発し、販売する主体としての出版社の立場が安泰な市場環境であれば、商品のフォーマット(ハードカバー/ペーパーバック/E-Book、PoD)、流通チャネルの変化は二次的な問題だ。  (鎌田、05/22/2013)

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