米国デジタル出版革命の総括 (2) 新しいルール (♥)

gear2米国において、E-Bookは5年で3000億円の規模に達した。注目すべきことは、規模や成長率よりも、この市場の性格と、デジタルを背骨としE-Bookを戦略商品とする21世紀型出版市場の構造だ。E-Bookは一つのフォーマットであり、印刷フォーマットと深い関係にある。出版経営は目標に対して全体を最適化することだが、その軸が伝統的な商品とチャネルではなくコンテンツとマーケティングにあること、デジタルは増幅要素であることを、米国の出版社は学んだ。だから低価格を怖れたりはしない。 [全文=会員]

出版はグーテンベルクの「成長限界」を超えた

前回述べたように、商業出版は(少なくとも現在の)E-Bookに適していたようで、とくにフィクション系の大きな伸びがそれを示している。2008-12年で成年向けフィクションは45.8倍、他方でノンフィクションは32.9倍。レイアウトが単純で紙の本との差が少なく、同一ジャンルのコンテンツも多いことなどで、オンライン・マーケティング/流通になじみやすかったと思われる。E-Bookはコンテンツの消費を促すように機能し、紙への打撃という出版社の危惧は杞憂に終わった。数字を見る限り、デジタルは印刷本→書店という伝統的なチャネルの外に、新しい拡張領域を確保したことを示している。

By_genres

危惧の最たるものは、E-Bookの価格問題であり、低価格のE-Bookによって新刊ハードカバーが売れなくなるということだった。そのために大手5社による「談合」事件まで起きたことは記憶に新しい。BookStatsによれば、E-Bookの平均価格は、低下する傾向にはあるものの、10ドルからそう離れず比較的安定している。アマゾンは全体として売上を最大化するために調整しており、単純な値引き販売はしない。著作権者/出版社と基本的利害は同じだ。

Units_Dollars

E-Book販売の3つの教訓:複線化による増幅効果

かつて出版社は“$9.99”を病的なまでに怖れていた。大手5社の新刊は、2010年から12年にかけて高い価格設定で販売され、そのため小売市場では「電高紙低」という逆転現象も起きた。この状態が出版社、市場や消費者行動にもたらした影響は、おそらくすでに仔細に分析され、いずれ表に出てくるだろうが、当面は推測で我慢するしかない。しかし、エージェンシー価格から離脱しても出版社の経営に影響があったようには見えないし、関係者もそのことを口にしていない。高値固定をやめても問題がないことが分かっているためだろう。具体的には以下の3点だ。

  1. 15ドルで販売しても10ドルあるいは7ドルで販売しても、売上のマイナスにはならないこと
  2. 10ドルあまりで販売される印刷本の新刊ベストセラーの売上にもマイナスにならないこと
  3. 出版ビジネスはゼロサムではなく、複数のフォーマットの連携によるプラスサムであること

buy現実にはマイナスにならないどころではなかった。消費者はフォーマットの選択が広がったことで圧倒的に買いやすくなり、購入意欲が刺激された。人により、E-Bookをダウンロードした場合もあれば、書店で買った場合もあるが、とにかく増えた。自主出版出身の無名作家による数千万部の超ベストセラー『フィフティ・シェイズ』は、フォーマット、マーケティングの両面での増幅効果によって実現されたものだ。E-Bookは紙を食うどころか、むしろ輪転機をフル稼働させたのだ。ランダムハウスは莫大な利益を上げ、社員全員に5,000ドルのボーナスが支給された。デジタルはまさに軍事科学用語でいう force multiplier戦力増幅要因)であり、IT用語でいう enabler(実現要因)だったのである。出版プロジェクトの。

multiplier2出版社のビジネスは、版権を持つコンテンツをE-Book、ハードカバー、ペーパーバック(+PoD)の3+1個のフォーマットで販売することが前提となっている。この3+1から産出される売上と利益率を経営目標に対して最適化するのが出版経営だ。言うまでもなく、柔軟性が高い(製造・販売・在庫コストが最少な)E-Bookの使い方で経営のスキルが問われる。出版社はそうした21世紀のゲームのルールを理解した。 (鎌田、05/27/28/2013)

Scroll Up