米国デジタル出版革命の総括 (3) 読者の実像(♥)

Men in combat with Amazons mounted on horsebackこれまで「消費者/読者」の実像についてはほとんど知られていなかった。BISGは購入パターンを軸に、性別、世代別、属性別などの項目を組合せることで、かなり詳細に描き出している。それによるとの市場は、中年女性が優位を占める「パワー・バイヤー」と呼ばれる優良顧客層が消費をリードしている「アマゾン王国」ということになる。彼女らが『フィフティ・シェイズ』現象を現出した。日本の出版の課題は、巨大なポテンシャルを持つ大人の女性を掴む(=女性読者に奉仕する)ことではないだろうか。[全文=会員] (図はギリシャ神話のアマゾンの戦いを描いた絵)

女性優位の「パワー・バイヤー」が市場を牽引した

本はかなり特殊な商品であり、年に数十冊を買う人もいれば、数冊あるいはゼロの人もいる。ベストセラーになるような本は、めったに買わないような人が「ものの弾みで」買ってしまった本ということになる。消費者を一括りにして論じることは無意味だ。

[頻度別] BISGのレポートは、E-Book消費者の購入パターンに注目し、とくに頻度で3分類した上で分析している。(a)頻繁(週1冊以上=17.1%)、(b)時々(月に1-2冊=55.1%)、(c)たまに(=26.5%)、という3分類だが、a+bで7割を超えるのだから、かつて「本好き」を謳われた日本人と比べても信じられない数字だ。a層は「パワー・バイヤー」と呼ばれる。a層はb層の数倍は購入するので、b市場に近い規模がある。出版の多様性を支えるのは、このa層でありマーケティングでは最も重視される。

Frequency

[性別] さてこのa層は、圧倒的に女性が多く、2倍以上。b層、c層となるほど差は縮小するが、c層でも6:4くらい。つまり本という商品は3:2くらいで女性優位の市場なのである。日本ではこれに対応したデータがなく毎日新聞の「読書世論調査」くらいだと思うが、これほどの差は出ていない。米国の女性が読みすぎるのか、日本の男性が読まなすぎるのか。あるいは米国では女性が読む本の市場が開拓されているのに対して、日本ではまだ(出版界が男性優位なせいで)未開拓であるのかも知れない。

Gender

[世代別] 年齢(世代)別でみると、10~30%前後で、年齢が高いほどデジタル・リーディングの利用は低くなる。性別では傾向がはっきりしているのに対して、世代別ではa層の構成比にそれほど差はない。ベビーブーマー(55-64歳)は比較的よく読むのが目立つくらいだ、全体として日本と比較したら違いは大きそうだ。日本では「インターネット世代」の購買がこれほど活発であるとは思えない。米国の読書教育を評価すべきだろう。職業別では、専門職、秘書・事務職などが高い。学歴・所得との相関が高いと思われる。BISGによると、代表的なパワー・バイヤーは、55-64歳の女性で、徐々にE-Bookに引き寄せられていったという。しかし彼らのデジタル・リーディングへの移行によっても紙の本の市場が影響を受けていると言えないのは、デジタル版が売れることによって印刷版が釣られて売れるような効果を持つ可能性がある。

Age

2011年以前からのユーザーが市場の中核

[時期] E-Bookに接した時期を5分類しているが、1-2年前(2010-11)が最も多く、2年以上前(2010年以前)がそれに次ぐ。a層の70%以上、b層でも70%近くが2011年以前からのユーザー。E-Book市場の離陸期にデジタル・リーディングに接した顧客はそれ以後も「超優良顧客」であり続けているということが重要だ。アマゾンはこの時期からの顧客が多く、B&Nがそれに次ぐ。ソニーReaderは絶好の機会を逃した。アップルやKoboは地道に追い上げていくしかないわけである。初期ユーザーの重要性は日本でも変わりがないと思われる。BISGによると、パワー・バイヤーの8割がアマゾンで購入しているというが、40%はB&N Nookでも購入しており、30%は図書館/OverDriveを使って購入する本を探索しているという。図書館に来る「上客」を出版社は軽視し、アマゾンは重視している。

First-Acquisition

Online_stores

[紙との使い分け] では、紙とデジタルの購買行動をみたらどうだろうか。調査では、(1)E-Bookオンリー、(2)ほとんどE-Book、(3)交互に・同じ程度、(4)もうE-Bookは買わない、(5)ジャンルによって使い分け、という選択肢で聞いている。a層では30%が完全にデジタルに移行し、50%がデジタル中心になっている。両方を使い分けているのは12%程度。b層では、それぞれ20%、50%、25%で、やや印刷本への嗜好が強くなる。c層では、18%、36%、36%といったところ。デジタル・リーディングのメリットは大きいようで、消費拡大に大きな効果を持ったということが出来る。紙の本を年に50冊も買えば、容積は0.2~0.5立米あまりになる。このスペースファクターを負担に感じる人は多いので、物理的制約のないE-Bookは消費拡大効果を持つことが知られていたが、ほぼ事実として裏付けられたことになる。

Behavior

[分野別] 分野別の購買傾向は、文芸フィクション、ミステリ/スリラー、ロマンスの3つについて見ているが、ミステリ/スリラー・ファンの多読傾向が飛びぬけて高く、その逆も真だ。女性読者が多いとみられる文芸・恋愛を合計すれば、それを上回る。いずれも連作が多く、“中毒性”も高い分野であり、近年のこれら分野の市場開拓が、デジタル主導で進められたことを示している。E-Book読者調査で明らかになった事実は、前回(2)の結論と符合する。過去5年間で、E-Bookは最もこれを必要としていた層にアクセスすることで強い支持を得、拡販・増幅効果によってあたかも従来の市場の外側に「E-Book市場」が生まれたように見えるが、基本的には従来のパワーバイヤーの一部がデジタル化して「ハイパー・リーダー」を形成したと見るのが近いようだ。

Genre

 (鎌田、05/239/2013)

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  1. […] のE-Book消費者の購入パターンを示したもの。週1冊以上購入する人が17.1%、1-2ヵ月に1冊が55.1%いる。詳細はE-Book2.0 Magazineの拙稿「米国デジタル出版革命の総括 (3) 読者の実像」=会員向け) […]

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