『ニューズウィーク』とジャーナリズムの運命 (♥)

Newsweekニューヨークのメディア研究シンクタンク、ピュー・リサーチ・センター(PRC)は、米国ニュースメディアの年次レポートである "The State of the News Media 2013" を発表し、ニュース誌(6誌)の厳しい現状を映し出したが、なかでも買い手を探しているニューズウィーク誌の危機的な状況が明らかになった。2012年の広告ページは6誌平均で10.4%減少したが、これは全雑誌平均の8.2%より25%高い。店頭売り部数は16%の急落を示し、全雑誌平均の2倍。[全文=会員]

低迷するニュース誌と力強さに欠けるデジタル広告

PRCのレポートは、タイム(TM)、ニューズウィーク(NW)と、エコノミスト(EC)、アトランティック(AT)、ザ・ウィーク(TW)およびニューヨーカー(NY)の6つの雑誌グループを扱っている。TM-NWは総合ニュース誌、他の4つはニッチ・ニュース誌に分かれる。これらのなかで「要注意銘柄」が創刊80年の歴史を持ち、今年から電子版1本となったNWだ。部数/広告減少と慢性的な赤字に悩まされてきた同誌は、2010年に大物編集長としてティナ・ブラウン氏(Vanity Fair、New Yorker、The Daily Beast)を招聘し、次いで印刷版を全廃するという荒療治に出た。コストは大幅に減ったが、売上も同様だ。2012年の数字は、前年までの落ち込みを辛うじて押しとどめただけで、2013年以降の頼みの綱となるデジタル収入の見通しは立っていない。2007-2010年に購読者数は307万7.771人から153万5,930人へ半減し、広告収入は60%減少した。そしてもはや「広告ページ」は存在しない。雑誌業界が期待した、タブレット広告の増加は緩慢なものだ。

Newsweek_final_issue1933年に創刊したNW誌は、1961年以降ワシントン・ポスト紙の傘下で運営されていたが、2010年に1ドルで実業家シドニー・ハーマン氏の手に渡り、次いでメディア企業 IAC/InterActiveCorp. が50%を取得して、IACのネット・ニュース、The Daily Beast と合併させた(The Newsweek Daily Beast Company)。しかし、シナジー効果によって、ともに黒字とする思惑は外れ、12月31日号をもって印刷版の「廃刊」とオンライン版 Newsweek Globalへの移行が発表された。

IACのオーナー、バリー・ディラー会長が「後悔している」と認めている通り、合併は失敗だったと言ってよいだろう。そしてまた新しい買い手を探している。業界ではこの老舗メディアのブランド価値が話題になっている。黄金時代のニュース・ジャーナリズムのオーラは消え、新しいアイデンティティも生まれていない。もちろん広告収入を保証するビジネスモデルも。ニュースをコモディティとする(俗に“ファストフード・ジャーナリズム”と言う)The Daily Beast(ハフ・ポストに対応)との合併がうまくいくはずもなかった。エンタメ系の辣腕経営者には、些細な違いに見えたのだろう。

週刊ニューズ誌の経営環境は急速に悪化している。週刊誌は確かな取材に基づいた長文記事を掲載するジャーナリスティックな質を身上とするが、無料のファストフード系サイトやや新聞、ニッチマガジンと同じ土俵で競争することを強いられる。品質と価値評価・対価がバランスを保つことが非常に困難になりつつある。印刷版については US Postal Serviceが土曜配達を中止することも、とくにタイム誌などには影響が大きい。いずれにせよ、オンライン購読/広告の急速な拡大が起きなければ、持ち堪えられる時間はそう長くないだろう。とくにNWは。

なお急成長は期待薄

PRCのレポートによれば、ニュース誌は比較的長文の調査・分析記事という性格からいって読者の獲得が(ファストフード系に比べて)容易ではない。Nielsen Netviewのデータではオンライン読者は6誌中4誌で増加しているが、その増加は目覚ましいとは言えない。TMは770万で横ばい。NWが330万から480万に増やしたと言っても、The Daily Beastとの合併効果によるものだ(数字は月間ユニーク読者)。

8-Time-Captured-Most-Online-Traffic-in-2012

米国成人人口に対する2012年の普及率は、スマートフォンが45%、タブレットは31%となったが、前者の11%、後者の22%が毎週雑誌を読むために使っている(PRC、2012秋)。一般的なニュースを読むために利用しているユーザーは、62%と64%なので、雑誌はかなり低い。よい雑誌にとってよいニュースは、新規のタブレット・ユーザーの78%が、長めの分析的記事を読むことがあると答えていることだ。しかも61%(つまり大部分)は2~3本は座って読み、17%は4本以上を読むこと、また圧倒的多数(72%)は、事前に読もうと決めていた記事ではなく、メディアから掘り出した記事を読んでいる。ガジェット好きが多かった初期のユーザーよりは、情報に敏感で知識欲のある層が増えてきたようだ。こうした数字は、少なくともメディアとしてのモバイルの可能性を示している。

この可能性に対して、実際の市場も徐々に増えている。投資会社のVeronis Suhler Stevenson  (VSS)の予測では、広告料収入と購読料収入を合わせた電子雑誌市場は、2012年には22%伸びて13億ドルに達し、2016年には29億ドルとなるとみている。とはいえ、なお100億ドル前後はある印刷広告、購読料収入の落ち込みを補う存在となるには、かなりの高成長が必要となる。VSSは2016年でもデジタル収入は200億ドル市場の14.5%を占めるだけとみている(全体としては非常に低い成長を予測)。

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電子雑誌の課題:価値、ビジネスモデル、マーケティング

ambivalence2それにしても、E-Bookに比べてなぜ電子雑誌はかくも難しいのだろうか。理由はステークホルダーが多く、複雑だからだ。もともと読者だけで成立していた書籍市場に対して、雑誌は広告主が重要なパートナーとして存在した。読者を資産として広告主に訴求するビジネスモデルをそのままネットに移行するのは不可能であり、まったく新しいメディア・プラットフォームを再構築する必要がある。スペースを販売する広告からの脱却は簡単ではない。

ambivalenceニュース雑誌の場合にはさらに難しい問題があり、発行間隔と編集形式によって分かれてきた新聞(日刊/ブランケット判~タブロイド判)、雑誌(週刊・月刊/小冊子)、書籍(随時/冊子)という形式的カテゴリーが意味を持たなくなり流動化する中での再構築が必要で、それまでは支えるものが次々と失われていく状態だ。完全にWeb化したファストフード「新聞」は(米国で)それなりに安定しつつあるが、<品質、スタイル、指向性>といった漠然とした価値のパッケージを読者に訴求してきた雑誌を時間的・空間的に再構成するのは、印刷機のような物理的制約がないだけにむしろやりにくい。かといって印刷版の形態にこだわれば「電子縮刷版」という、独自の魅力に乏しい、中途半端な(あるいは補助的な)ものに止まる。ニュース雑誌は「ニュース」という対象と「雑誌」という形態の間の矛盾を解決しなければならない。さらには経営の独立性に立脚した調査報道、高度な分析という伝統的価値と広告価値とを両立させる問題もある。こちらのほうはまだ輪郭すら見えていない。

印刷技術の革命が起きた19世紀の英国では、まずゴシップ紙から普及が始まり、ジャーナリズムの作法やルールが確立されるとともに、棲み分けが出来ることで多様性を保証する「エコシステム」が形成されていった。デジタル時代のニュース雑誌を再構築するためには、中心的価値である「ジャーナリズム」を保証するシステムをゼロベースで設計するしかないと思われる。印刷を捨てたNWは、その最初のモデルとなるか、それとも消滅するか。 (鎌田、06/06/2013)

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