ペンギンが革新的プログラム First to Readを発表(♥)

F2R_logoペンギンは6月18日、新刊本の“見つかりやすさ”を高める「オンライン・ディスカバリー・プログラム」の一環としてFirst to Read という試読会員サービスを開始した。登録した一般読者は一部の新刊書のデジタル・ゲラの抜粋を発売の数ヵ月前に読むことが出来るが、SNSでの情報共有と拡散によってポイントを獲得する。オンライン・マーケティングの主流となりつつある「エンゲージメント」手法を、個々のタイトルではなく、出版社として導入した点で先駆的なものと言える。[全文=会員]

書評用の「ゲラ」を戦略的に活用するペンギン

出版界の用語で、ゲラは発刊前の校正用試し刷り(Galley Proof) を指すが、海外では書評用に使われているので、事実上のプレリリース版と考えてよい。米国では書評者、書評媒体の数は相当に多く、E-Book以前は千部以上も刷って郵送していた。販促コストとしても相当なものである。ゲラがデジタル化され、また書評者への配信までやってくれる NetGalley のようなサービスも登場したことで、出版社のコストは省けたわけだが、仕事はいくらでもある。最大のテーマは“見つかりやすさ” (discoverability)問題だ。書評媒体の影響力は相対的に低下し、逆にSNSによるクチコミが比重を増している。ペンギンはゲラ(の一部)を一般読者に開放することにした。

DeadZoneproofFirst to Read は、アドビのDigital Editions を通じてゲラを提供する。対象は、ミステリ、ロマンス、ノンフィクション、青少年向けまで各ジャンルを網羅し、'Hotshot' (by Julie Garwood)、'The Signature of All Things' (by Elizabeth Gilbert)、'The Fiery Heart' (by Richelle Mead)、'Sister Mother Husband Dog' (by Delia Ephron)、'The Childhod of Jesus' (by J. M. Coetzee)、'Dark Lycan' (by Christine Feehan)などを含んでいる。プログラムを担当するのは、Consumer Engagement(後述)専門の部署だ。ポイント・プログラムが組み込まれており、積極的な関与によって将来の試読へのアクセス保証その他の会員特典が用意されている。詳細は明らかではないが、アクセス対象の拡大や割引などが考えられる。

ブックマーケティングにおけるエンゲージメント(ユーザー関与)戦略

新刊書の売れ行きは放物線を描いて落ちていくので、発売時の初速が全体としての販売数に大きく影響する。これは印刷本でもE-Bookでも同じで、発行までの事前販促は重要な意味を持つ。とくに印刷版の場合、書店からの予約買付部数はこれによって決まる。また、出版社としても、次に出す/読む本に対する消費者/読者の関心をつねに惹きつけ(engage)ておく必要があり、ゲラはその最も有効な手段とされるわけである。効果的にやれば、低コストで高い効果を上げ、他社に対抗することが出来る。

social_mktg日本ではまだあまり知られていないが、Customer Engagement (CE)は、近年普及してきた広告・マーケティングのキー・コンセプトで、アマゾンの最新の標語も 'serving the world's largest engaged online community' だ。ブック・マーケティングへの応用については機会を改めたいが、簡単に言って読者の 'engagement level' (関与度合い)を高めることが目標になる。例えば、ブックマークを付ける→評価する→知人に紹介する、といった具合。SNSの普及とともに、商品マーケティングではかなりおなじみとなってきたものだ。

日本でもいずれは導入されると思われるが、まず本の売り方を改める必要がある。日本では新刊の予定や内容は(真似や対抗企画を防ぐためとして)配本の直前くらいにならないと発表されないという悪習があり、読者も書店はおろか、メディアでさえ情報を得るのが遅く、書店でのライフサイクルがますます短縮するなかで、十分な販促/販売期間がとれない。これも米国のマーケティングのトレンドだが、"Interrupt and Repeat"(割り込んで連呼する)という伝統的な広告手法への反省が進んでいる。高いコストで少ない効果(逆効果もある)は、今まさに進行している日本の選挙と同じやり方だが、ほとんどのブックマーケティングにこれが相応しくないことは言うまでもないだろう。発行計画を明らかにし、内容/抜粋を書評者や一部の読者に回付することは、出版界の常識となるべきだろう。 (鎌田、06/19/2013)

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